幻水の作家な気分 |
カウンター設置:2009.11.24
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帝国歴五一六年終わり、ガラバード帝国は国を二分する戦いが開始された。また、同時に皇帝ラトールが帰らぬ人となった。 新たなる皇帝には、皇帝の遺言には反して長男ティランが選ばれ同時にアルウスは丞相の位についた。又、これまでベネラルの位であった帝国防衛将軍の位にはアルウスの長子ラステールが任命された。 これにより、アルウスは、政治と軍事の両を完全に手にいれることに成功した。 エラナがこの報を聞いたのは、リクイド城の屋敷であった。 「エラナ様、たった今入りました報告によりますと皇帝ラトール様がお亡くなりになったそうです」 本に埋もれて寝ていたエラナに執事のセラスがそう伝えた。 「えっ、もうしばらくは大丈夫だと思ってたけど。セラス、城へ行きます。馬車を準備して下さい。それからラフォーレを呼んで」 屋敷にかっての仲間であったラフォーレが来ていた。 「畏まりました」 しばらくしてラフォーレは姿を現わした。 「エラナ、どうしたのですか」 ラフォーレが部屋に入ってきたとき、エラナは汗で汚れたローブを脱いで着替えている最中だった。 「ラフォーレ、皇帝が亡くなったのは知ってるわね」 彼女は彼の目を気にすること無く着替えを続ける。 「先程聞きました」 「私はこれからブラネスに合ってくるわ。その後、リスタールへ戻るから貴方にフォルクの所へ行って欲しいの。おそらくフォルクの力が必要になるわ」 エラナは儀礼用のローブに着替え、マントを身に付けた。 「わかりました」 「それからセレナにはここに残るように言っておいて」 このときは普段公爵領にいる彼女もこちらに来ていた。 「わかった」 「エラナ様、馬車の準備できました」 セラスが入ってきて伝えた。 「今行くわ、それじゃ頼んだわよ」 部屋から出たエラナを、妹のセレナとフィーラが待っていた。 「お姉様、私も行くわ」 同年齢と比べてそれほど背の高くないセレナが姉にそう言う。 「セレナ、貴方はフィーラとここにいなさい」 「私は、行くわよ」 「仕方がないわね」 そう言い、セレナの額に軽く触れた。 「それじゃ、いい・・・」 エラナの腕に抱かれるようにセレナが倒れた。 「フィーラ、ベットに寝かせておいてちょうだい。しばらくは目が覚めないはずです」 「わかりました」 フィーラはセレナを肩で支えている。二人の年齢は四歳しか違わないが、セレナの方が少し大きいぐらいでさほど差は無い。 「次に帰って来るときはもう少し時間が取れると思うから」 「はい」 屋敷を後にしたエラナは、馬車を急ぎリクイド城へ向かわせた。 城の門番はエラナを知っているものであった為、城内へは簡単に入ることもでき、城主ブラネスとの謁見もスムーズに事が進んだ。 「おお、エラナか。そろそろ来る頃だと思っておったぞ」 「ブラネス卿、少しお願いがあって来ました」 「何だ、私で出来ることならば協力しよう」 「では、城地下の扉に入らせて欲しいの」 「何をする気だ、それにあそこは王族以外立ち入れぬ領域だぞ」 「知ってますよ、初代ガラバード帝国皇帝王妃エラナ・アルスタークの封印があることぐらい」 「そう言うことだ、それにあそこを開く手段は今では失われておる」 「開く方法は知っています。それを示した書は私が持っています」 そう言って、ローブの裾から書を取り出す。 「フレア公爵家に引き継がれた書か」 「その通りですよ。それにこのリクイド城は別の意味もあって建てられた城ということまではご存じでは無いでしょう」 「別の意味だと」 「そうです、この城は墓の意味もあるのです」 「・・・まさか」 「そのまさかです。リクイド城はエラナ・アルスタークの墓でもあるのです」 エラナは、古文書のそれを証明できるページを開いた。 『我、北の地底墓上に帝都を守りし砦を築かん』 誰の墓であるか、砦の名は示していないが、リクイド城は元々最初の帝都で現在の帝都と比べてもかなり警固なつくりとなっている。そしてこのリクイド城の下に迷宮が存在する。 「地下が迷宮になっているのはその為か、だが墓を荒すのか」 リクイド城の地下には複雑な迷宮が造られており、その奥にただ一つ開かずの扉がある。また、リクイド城事態の歴史は長く、建設されたのは四七〇年以上前である。 「後で本人に承諾でもしてもらいますよ」 「五〇〇年も前の者にどうやって許してもらうのだ」 人間で記録に残っている最高寿命は、第一四代学院最高導師の一九四歳である。 「まだ生きているはずですよ」 「それは有り得ん、記録にも亡くなったとあるのだぞ」 初代皇帝王妃エラナ・アルスタークは王家の文書にも帝国歴七八年八の月に九八歳で亡くなり王家の家に眠ると記されている。王家の家は、王妃よりも先に亡くなたった初代皇帝が眠る墓を示し、以後の皇帝も同じ地に眠っている。 「別に不思議はありませんよ、高位の魔術を使えば仮死状態になることも出来ますし、その仮死状態を維持すればかなりの年月を生き抜くことだって可能です。現に私もその手の術は使えますし、現在より高度な魔術が使われていた時代ですから」 当時の魔術師の平均寿命が一二三歳であるから当時最強の魔術師と云われていた王妃の九八歳は若いと云えばかなり若いと云える。 「いまいちわからんが、行ってみればわかることだな」 エラナはブラネスと共に城の地下へと下りた。 「エラナ、何をする気だ。いかに王族と云えども死者の墓を暴くのはどうかと思うが」 「墓とは言いましたけど、実際はここが王家の墓ではないですし一種の遺跡と言ってしまってもいいものです」 ここが王家の墓であると示された公式文書は存在しない。 「ここね」 長い迷宮をエラナは迷うことなく目的の扉までたどり着いた。 「初めてではないな」 「迷宮はね。五年ぐらい前にベネラルと来たことがあるわ、でもその時は扉の開け方が解らなかったからそのまま引き返したけどね」 「私はそんな話は聞いとらんぞ」 「言いませんでしたからね、それに迷ったとしても私の魔法で戻ることが出来ると考えてましたし、それほどたいしたこととは思わなかったわ」 「まぁいい、で、どうやって開けるのだ」 「これよ」 エラナは一つの指輪を取り出してブラネスに見せた。 「それは皇帝陛下、兄上がつけていた指輪ではないか」 「そうよ、それからもう一つ」 次に取り出したのは玉爾であった。 「それをどうやって手に入れた」 「こないだ帝都に行ってアルウス腹心の何人かを始末したときについでに貰ってきたわ。後でフォーラルが皇帝になるのにはあった方がいいでしょ。あと王冠と剣もあるわよ」 「皇帝を示す四品すべてを手に入れたのか。本来なら重罪だぞ」 盗み事態、そもそも重罪だがこれらの品を盗んだとなれば死罪を免れることは出来ない。 「アルウスにあげるにはもったいないわ。それにこちらが本当の皇帝なのだから罪にはならないわよ。それにこれは私が陛下が亡くなる前に直接頂いたものですからね」 そう言いながら、指輪を指にはめ玉爾を扉にはめ込む。ちょうど玉爾が取っ手のなる。その上で鍵穴に指輪の宝石をはめ込む。 「扉よ我を向い入れよ」 彼女の言葉に扉は静かに口を開く。扉が開くと彼女は玉爾を回収し中へ入ってゆく。ブラネスも彼女の後に続いた。 「直接、兄上からもらったのか」 「フォーラルに皇帝を譲るという遺言状ももらってあるわ」 扉を抜けると長い通路が続いており、二つめの扉を開けるとそこには地下宮殿が現れた。 「なっ、何という広さだ。とても城の地下とは思えん」 「異空間になってるわ。しかもすごいわ、これは完全な異空間よ。これを維持してるってことはかなりの魔法装置が使われているはずよ」 「卿、これ以上貴方は行かない方がいいわ。この手の空間は創造者が望むように変化させることができるわ、下手すれば二度と出れなくなってしまうかもしれないわよ」 「待っているのはしょうに合わん、付いていこう」 「別に止めはしないわ」 入り口からどれほど歩いただろうか、二人はやっとのことで謁見の間までやってきた。途中、妨害する者はなかったがそれ以上にこの空間、宮殿は広かった。 「いらっしゃい」 大きな棺の上に腰を降ろした女性が話しかけてきた。年はエラナと変わらず容姿もかなり似ているが、上にたつものの風格が彼女にはあった。 「エラナ・アルスタークさんですね」 エラナは一歩前に進み出て尋ねた。 「そうよ、貴方達がここへの最初の来客者よ」 そう言い王妃エラナは杖を手にし棺の上に立ち上がった。エラナも同じように手にしていた杖を身構える。 「試させてもらうわよ」 王妃は突如姿を消し、次の瞬間エラナの前に現れ杖を振り下ろす。エラナはそれを素早く自らの杖で受け止める。 「聖五法魔十字(マジック・クルース)!」 両者を包み込むように五法星が出現する。エラナも知らぬ術であったがすぐに対抗魔法を打ち出す。 「魔法消去(マジック・イレイズ)!」 五法星に杖を突き立てて王妃の魔法を消し去る。 「少しは出来るようですね」 王妃は再び棺の上に立っていた。 「本気で来たらどうです、これでも現代の最高位の魔術師である自信はあるのです」 「どうやらそのようですね」 王妃エラナは再び姿を消すと今度は上空に飛び上がっていた。 「超炎魔閃砲(ファイア・キャノン)!」 西方軍王ラティールが使ってきた術だが、これも今のエラナには使えない術である。 「魔皇狼獣破(クライスト・ウォルド)!」 王妃の炎をエラナは闇の力で相殺させる。 「魔皇剣(クライスト・ブレード)!」 術を打ち込むと同時に杖を床に突き立てると、闇の剣を発動させ斬り込む。 「魔力剣(マジック・ブレード)!」 王妃エラナも魔力で剣を造りだし受け止める。本来、受け止められるものではないがエラナの力が激減していることにより威力が半減していなければ受け止められるものではない。 「もういいでしょう、貴方の力は良く解りました」 王妃エラナがそう告げたことで二人の戦いは終わった。 「はぁはぁはぁはぁ、悪いけどどのみち私はこれ以上、術を使う魔力は残ってないわよ」 「貴方が完全な状態なら私が完全に負けてました。まさか魔皇クライストの力を借りた術が使えるとは思ってなかったわ」 「吸収した部分的な力よ、まだ他にも術はあるけど今の私でも使えるのはあの程度よ。それよりも私の話を聞いてもらえますか」 エラナは杖で体を支えて立っているのが精一杯であった。 「椅子を準備しましょう。話はそれからです」 王妃が一言二言、言葉を唱えると床の石が盛り上がった。エラナはその石に腰を降ろした。 「で、私に話したいこととは何ですか」 「幾つか分けて欲しいものがあります」 「何が欲しいのです。ですけど、ここにたいしたものはありませんよ」 「私が欲しいのはここにある幾つかの壷です」 「何をする気です。あれには私が封じた幾つかの魔物が入っているのですよ」 「知っています。それらを私の魔力を回復する手段として欲しいのです。魔皇と魔神獣の軍王との戦いで殆ど使い果たして自然な方法では回復を待つには時間がかかりすぎます」 「なるほど、それならば回復させる方法がないでもありません」 「えっ」 「魔神獣を知っているって事は、彼らがこの世界の住人でないことも解っていますね」 「ええ」 「彼らの世界はこちらの世界より魔力が濃いのです」 「それは知っています。その為、彼らは必ず体内に強力な魔力を持っていることも知っています。だからこそ私はそれらの力を吸収してと思ったのです」 「確かにそれは出来ますが、本当にそうするならどれだけの力を吸収しなくてはいけないと思っているのです。おそらく私が封じている壷の半数をもっても足りませんよ。それに実際ここには殆ど壷は残っていませんよ。この500年間の間で研究材料として使ってしまいましたからね。ですが、それよりも異界から直接魔力を引出して吸収した方が効率がいいですよ。最も貴方と同格の相手を一人吸収してもいいのですが、それを倒すだけの力はないでしょうからね」 「それはすぐにでも可能なの」 「この空間を維持する魔力を何処から得ていると思っているのです。この空間を維持させている魔力炉こそがそれですよ」 「なるほどね、そういう方法でもよさそうね」 「それにこの空間にいるだけでもかなりのスピードで回復できるはずですけれどね」 「ちなみに私が全魔力を回復しようとしたらどれぐらいかかりますか」 「そうね、この空間でしたら二週間、魔力回復装置を使用して三日ですね」 「もう少し早くならないかしら」 「可能だけど条件があるわ」 「何です」 「たいしたことではないわ、私もそろそろ退屈してきたところなので、上の世界を案内して欲しいってこと、別にすぐにでもなくても貴方が暇なときでいいわ」 「それでいいのなら」 「では決まりね、それじゃ私の魔力を直接貴方に送り込むわ」 王妃エラナはエラナとブラネスを別の部屋へと案内した。その部屋には二つの水が入った巨大なカプセルが置かれていた。 「貴方はそちらのカプセルに入って下さい。但し着衣は脱いで下さいね。不純物が入ると失敗する可能性があるの。そう言うわけだから、貴方は隣の部屋で待っていて下さい」 「解った」 それだけ言うとブラネスは黙って部屋を出ていった。 「服はその辺の椅子にでも掛けておいて」 ローブを脱いでいるエラナに椅子を指して言った。王妃も着衣を脱ぎ始めた。 「随分と白い肌ね」 一糸纏わぬエラナを見て彼女がそう言った。一方の王妃は少し日に焼けた感じがあった。 「殆ど外に出ませんし、四年ぐらい前に旅をしたときもずっとローブを着てましたからね」 四年前に旅をしたとき仲間に戦士が多い為、彼女自信が剣を取る必要はなかった。だいたいはラフォーレかラクレーナが守ってくれた。 「カプセルは擦り抜けられるようになっているからそのまま入れるわ。入ったらできるだけリラックスしていてね」 エラナがカプセルに軽く手を触れようとすると手がそのまま擦り抜ける。 「なるほどね」 彼女はカプセルの中へ入ると静かに目を閉じて水の中に浮かんだ。王妃もそれを確認すると自らもカプセルの中へ入った。 魔力の転送は三〇分ぐらいで終了した。 終わったときにはエラナの完全に魔力を回復していた。 「気分はどう?」 体を拭き着衣を身に付けているエラナに尋ねた。 「これで十分に戦えるわ。だけどこれだけ私に魔力を分け与えて大丈夫なのですか」 「心配しなくても、私の魔力の絶対値は貴方よりも上よ。もう一度ぐらいなら出来るし、この空間そのものが私の都合の良いようにつくってあるから、数日も休めば回復するわよ」 「それならばいいですが」 「そんな事より約束は守ってもらうわよ」 笑みを浮かべながら王妃はそう言う。 「わかっています。ただこれからリスタール城まで行かなくてはいけないので」 「ついでだから付いてくわ。私の子孫がどの程度かも知りたいですから」 「そう言うことでしたら、どのみち私は今後いろいろな所へ行く予定ですから約束も一緒に果たせると思います」 「それでは隣であまり待たせるのもあれですから行きましょうか」 ブラネスは隣の部屋のソファーで横になって寝ていた。 「卿、終わりましたよ」 「ああ、エラナ終わったのか」 「そう言えば名前を聞いてませんでしたが、貴方もエラナなのですか」 「ええ、祖父が貴方の名前を取って付けたと言ってました。ただ私は正式な王家ではなくて一〇〇年ぐらい前に王家から分家した家系ですけどね」 「その割にはそちらの人よりも血が濃いみたいですけど」 「そうなのか、これでも私は現、いや先日死んだ皇帝の弟ではあるのだがな」 ブラネスは死んだ皇帝ラトールの実弟である。ただ分家はしておらず、王家性アルスタークを名乗っている。 「それもそうでしょう、私のフレア家は近親間で生まれた一族ですからね」 エラナの曾祖父は、皇帝の弟と妹の間で産まれている。その為に、王族の性であるアルスタークを名乗れずフレア公爵と性を変えている。 「それは初耳だな」 この事実を知っているのは、当の本人達と皇帝の兄、子であるエラナの曾祖父だけである。妹の方がエラナの曾祖父を出産後にすぐに死んでいる為、形式状は曾祖父は養子となっている。 エラナ自身も曾祖父が残していた日記を偶然にも見つけて事実を知っただけで妹のセレナはその事実は知らない。 「私も最初は驚いたわ。フレア家がそんな理由で出来たなんて。だけど事実は事実なんだからそれは構わないと思うわ。だけど、世間に公表できることじゃないわ」 「確かにな、さすがに王家の中でそのような事があったとは言えんからな」 「ちょっとショックだけど、本人がそれで納得してたのならそれでいいと思うわ。それに過ぎ去ったことを修正することはできないわ」 「帝国なんて秘密の塊よ、例えばアルスターク家が良い例よ。元々アルスタークは私の家系ですからね」 「初代皇帝が養子であることですか」 「その様子だとあれを解読できたみたいね」 「解読できたのは数日前よ、まさかあれが神言文字で書かれているなんて思わなかったわ」 「まぁ、いずれ解読するものがでるとは思ってたからいいけど、その杖の力ね」 「そうよ、この杖は意志を持ってますからね」 「伝説の金属ルヴァイン、別命神の金属ですね」 「そう、神の力に絶えうる唯一の金属、それがルヴァインですからね」 オリハルコンを神の金属と云う者が多いが、それ以上の金属ルヴァインは自ら意志を持ち自らの持ち主を選ぶ。エラナが持つ杖はその金属でつくられている。 鉄や銀では神々の強力な魔力に絶えきれずに燃え尽きてしまう。だが、ルヴァインはそれに唯一絶えることができ、神々の力を最大限に引出すことができる。創造主が与えた金属である。 「さぁ、長々話してても仕方がないわ。外へ出ましょう」 エラナ、王妃エラナ、ブラネスの三人は地下から上がった。 「久しぶりの地上ね」 「前に出てきたのはいつ頃なんですか」 ブラネスが尋ねた。 「そうね、ファーマ公国ができた頃だから三〇〇年ぐらい前じゃないかしら」 「その間、あそこに一人でおられたのですか」 「会わせなかったけど、別に一人じゃないわよ。それに長い間でも退屈しないような空間に仕上げてあるし、建物も何度も作り替えてるし、あそこでは年をとることもないですからね。だから実際の私の年齢はかなり若いわよ」 「それでも一〇〇歳は十分に越えられているのではないのですか。私はまだ一九ですよ」 エラナは意地悪にもそう言う。 「で、まだ結婚もされてないのですか」 この世界で結婚年齢は比較的若く、小さな村では一二・三歳で結婚する事も珍しくない。大きな街でも一七歳では結婚していてもおかしくない年齢ではある。 「貴方が結婚されたのは三〇すぎでしたよね」 「三六よ、だけど、貴女にはすでに子供がいるようね」 「なぜ、そう思います?」 「貴女が現時点で子を宿しいる。それにリンクしたときにある程度、貴女については調べさせてもらいましたから」 「貴女には何も隠せ無いか」 「すでに2人、それとおなかに1人」 「私は先に戻らせてもらうぞ。職務が残っているのでな」 ブラネスはそう言い残すと速足でその場を後にした。 「ところで、貴女をこれから連れていくのはいいですけど、なんて呼んだらいいです」 「同じエラナってのも面倒ね。それに私が生きていることをあまり知られるのも困りますからスティーナと呼んでください。当時私が使っていたペンネームです」 「そういえば、一部の書はそれを使っていましたね」 「私の場合、本当はエラスティーナですから下をとって使っていただけですけどね」 リスタール城では、今後の対策をベネラルとフォーラルが話し合っていた。 「そうか、皇帝が逝かれたか」 ベネラルは、フォーラルの顔色を伺う。 「・・・」 「他の騎士団は、素直にアルウスに従ったのか」 報告を持ってきた騎士に尋ねた。 「いいえ、学院大導師ラスティーク様が学院の一部の魔導師と共にアルウスと対立しているようです。それ以外の騎士団は、全てアルウスに従いました」 騎士は、そうベネラルに告げた。 「そうか、大導師ラスティーク殿が動いたのか」 「はい、ラスティーク様は、アルウスが丞相になったことを知ると、アルウスの手先の導師を追放し、学院に立てこもっておりました。アルウスは兵を向けましたが、ラスティーク殿は魔法騎士団を組織してそれに対抗しアルウス軍を打ち破りました」 「なるほど、さすがはラスティーク殿だな」 「しかし、学院は帝都内で孤立状態ともいえます」 「いくら強くとも、もし数万の兵に攻め立てられたならば、町中故に不利になるだろうな。学院を失うは、帝国にとっての損失は大きい。フォーラル、何か良い策はないか」 「学院の救出ですか。それはかなり困難を極めると思いますよ。今の我が軍に帝都を攻めるほどの力はありませんよ」 「それは分かっている、だが、失うことはできん」 「分かっております。ですが、城攻めになりますと簡単にはいきません」 自軍の数倍以上の兵力が守る城を攻めるのは、自殺行為に等しい。 「ベネラル」 部屋へエラナが王妃エラナを伴ってへ入ってくる。 「学院の方は私に任せてもらいますか、例の兼でもう少し学院に用事がありますから、そのついでにラスティール師をここへ連れてきましょう」 「エラナ、お前が行ってくれるのか、それは心強いな。ところで、そちらの女性は」 ベネラルはエラナに良く似た王妃について尋ねた。尋ねられてエラナは王妃に視線を向けた。 「エラナとは同期だったスティーナと申します。ずっと村に戻ってたので詳しいことは知りませんでしたが、協力させて頂きたいと思って同行させていただきました」 「魔術の腕もかなりのものだし、戦略・戦術も選考してたから役に立つと思って連れてきたわ」 エラナはすばやくスティーナの話に口を合わせた。 「そうか、今は少しでも力の欲しいときだ感謝する」 「お任せください」 「頼む、それで任せてよいのだな」 「構わないわよ、あそこには私の造った転移装置があるし、今後の戦いにも利用できると思うわ」 エラナは、これまで小規模であった魔法装置をさらに改良し、高度な装置を造り上げることに成功している。 これは、これまでの古い考えを改め、新たなる魔術の仕組みを発見した彼女だからこそできたことである。これこそが、彼女が大魔術師と呼ばれる事実である。 しかし、実際はエラナが王妃エラナの魔道書を解読して不完全な部分を捕捉して作り上げたもので、これまで物のみだった転移装置を人間が転移できるように改良したのである。 「転移装置か、たしか都市リスタールにも過去の装置があったと思うのだが」 「ありますよ、できるだけ早めに改良しておくわ。ただ、私の造る物は材料費がかなり高くつくわよ」 彼女がそう言い、提示した金額はリスタールの年間予算五分の一だった。彼女の造る装置は特殊な金属を使用し、装置は精密機械と言ってもよい。 「かなりの額だが、仕方あるまい。任せよう。あの大砲を造ると考えれば安かろう」 先刻、アルウス軍を破ったあの大砲は、一台がガラバード帝国の年間予算三分の一の額である。それから考えるならば五〇分の一程度である。 「では準備させておくわ。それからあの大砲はあげる。私自信の出費も大きかったけど、帝国の未来の為にはその程度を惜しんではいられないですからね」 彼女は、大砲に自らの財産のかなりの額をつぎ込んだ。それらのお金は数年間で自らが、魔力を帯びた武器、魔力装置等を造り売り上げたものである。 リスタール城の自室に王妃を案内したエラナは、スティーナに白ワインを差し出した。 「飲めるでしょ」 「飲めるわよ、これでもアルコールには強いわよ」 グラスに注がれたワインを一気に飲み干してしまう。 「それで、あんな事を言ってしまって良かったのですか」 王妃のグラスにワインを注ぎながら尋ねた。 「別に良いわよ。どうせ暇ですし、私の観光案内もこれが終わらないとしていただけないようですから」 「そうですけど、それにたいしては何のお礼もできませんよ」 現在のベネラルには、軍を養うだけで精一杯で彼女に報酬を支払う余裕はない。アルウスを倒せばどうにかならないでもないが、不完全な約束をベネラルはしない。また、エラナ自信も殆ど資産を使い果たしており手もとにあるのは古文書程度で王妃への報酬にはならない。 「いいわよ、どちらかといえば貴女の力の方に興味があるの」 「それならば構いませんけど、普通の人間相手に本気で戦う気はありませんよ」 エラナは普通の人間相手に魔術を使う気はない。彼女の剣術でも十分に相手をすることができる。同じ帝国民同士での殺し合いは公国に付け入る隙をつくることにもなる。 「魔神獣を相手にするようになればそうなるわ」 「まぁ、ベネラルが言ってたとおり戦力は多ければ多いほど良いですから構いませんけど」 王妃エラナは戦略・戦術家の実力も合ったが、エラナが期待しているのは魔神獣と戦う為の力だけであった。 実際、王妃の戦略・戦術は素晴らしいがあくまで五〇〇年前の戦い方で現在の戦いとは違う。 二人はこの後、酒を飲みかわしたが王妃の酒の強さは半端ではなく一晩中飲み続けた。 「うっ」 翌朝エラナは飲みすぎで完全にダウンしていた。 「あの程度でまいっているのですか」 スティーナはエラナの三倍は飲んだが全く平気な顔をしていた。 「どんな体してるんですか」 部屋にはエラナが買い貯めていたワインやブランデー・ウイスキーの空瓶が散乱していた。 「エラナ、居るか」 ベネラルが扉を強く叩いている。 「いるわよ」 エラナが返事をするとベネラルが入ってきた。 「なっ、なんだこの酒臭さは」 「ちっと静かにして、頭ががんがんするわ。で、何のようなの」 「ああ、お前が魔法装置を改造する為に書いていたリストでたらぬ物があるらしい」 「何?」 鸚鵡返しに尋ね返す。 「魔力を含んだ高純度の宝石マナブルースだそうだが」 「ああ、それね。鍾乳石が化石になったもので希に昔の地層から見つかるもので特殊な魔法を施して造るものよ」 「殆ど取れないわよそんなの、でも初代皇帝の王冠に使われている宝石がそれだったけど、聖王国建国当時に紛失してるけど最も純粋でかなりの魔力が込めてあるわはずよ」 「確かにそんな話は聞いたことがある。だがそれは王家の者しか知らぬはずだが」 「紛失の話はともかくその存在を書き記した古文書ぐらい私が持ってるわ、それに今の王冠がそれとは別の物なのぐらい見ればわかるわ。私もそれを期待してたけど、はずれだったわ」 うつろな目つきでエラナが答えた。 「まぁ、確かに似せて造ったらしいが同じ宝石は手に入れられなかったらしいからな」 それもそのはず、王冠の宝石に魔力を込めたのが王妃エラナである。それに宝石の製作方法を知っていたのも彼女だけで、エラナが解読するまでの五〇〇年間でだれ一人として造ることができたものはいない。 「とりあえず、魔力は込めればいいから探しておいて、美術品としての価値もあるから探せば見つかると思うわ」 エラナはそのまま布団に潜り込んでしまった。 「もう少し調べさせよう」 それだけ言い残すとベネラルは部屋を出ていった。 「石が欲しいなら他にもあるわよ」 「えっ」 エラナは力のない返事を返す。 「一つは帝都ラクーンにある神殿の聖印、謁見の間にある玉座、それから私が使っていた部屋のシャンデリア、あとは学院の結界装置に使ってるのが六つ。それ以外にも幾つか造ったはずよ」 「そんなとこ・・・うっ」 「今日はおとなしくしてた方がいいわよ。薬でも貰ってきてあげるわ」 そう言ってスティーナは部屋を出ていく。 部屋を出た王妃を待っていたのはフェーナであった。 「有難う御座います」 「まさか貴女がここにいるとは思わなかったわよ」 「いろいろとありますから、それにしても三〇〇年ぶりですね」 「そうね、お兄様は元気」 「前に合ったときはですけどね」 「何年前の話?」 「たったの二〇年前よ」 「ふっ、今度合ったら私が合いたがっていたって伝えておいて」 「わかりました、いつになるかはわかりませんけど」 「いいわよ、何十年でも何百年でも待ってるから」 「普通の人間ではそんな台詞は出ませんよ」 不老であり、長く時を生き抜いた王妃エラナである彼女だからこそで、普通の人間ではそんな事は言えない。 「部屋に特殊な魔法をかけておいたから明日の朝までには元気になってるわ。私は少し出かけたいところがあるからあとは頼むわよ」 「いいですよ」 「あと、これを渡しておくわね」 ローブの下に隠していた細身の剣をフェーナに手渡す。 「前に頼まれた物よ、造るのに三〇〇年もかかったのよ、大切にしてね」 「本当に造って頂けたんですね」 「何とかね、だけどまさかルヴァインの原石を加工してくれなんて言われるなんて思わなかったわ」 永遠の時間と魔力炉、そして彼女の実力があって初めて完成する。彼女が三〇〇年以上の間、地上に出てこなかった理由でもある。 「申し訳ありません、ですが私の精霊魔法では限界がありますからね」 精霊魔法はあくまで精霊の力を借りている為、精霊そのものの力を越えることはできない。精霊使いの実力はいかに精霊の力を引出せるかということになる。 フェーナは精霊の力を完全に引出し、精霊神までも呼び出すことができるが彼女の力を最大限に活かすにはそれだけの場所が必要になる。 「ちょうどいい暇つぶしにもなったから良いわよ。それから余った分は有効利用指せてもらったわよ」 「構いませんよ」 王妃エラナが見せたのは白銀の髪飾りだった。 「そんなものも造れるんですね」 「こっちの方が専門よ」 王妃エラナが造ったといわれる装飾品は数多く残されている。彼女が造った装飾品は美術的価値も高く彼女の美術家としての名声も高い。 「私はそろそろ行きますね」 「ええ」 この二人の会話をエラナは部屋の中で聞いていた。 「やっぱりね、そんなことだろうと思ったわ」 彼女は先程まで寝込んでいた様子を感じさせないほどしっかりと立っていた。 「騙したのはお互い様だからいいけど、私も動かさせてもらおうかしら」 彼女が二日酔いだったことに偽りはない。だが法皇から力を借りられる彼女には術で酔いを覚ますことなど容易であった。 魔法を使うとスティーナに感づかれる可能性があったので、窓から外に出ると屋根伝いに隠れて移動し部屋から離れた場所から飛び立った。 リスタール城を後にしたエラナは、転移の術で学院へ降り立った。 「貴方は、エラナ様」 学院そのものからは追放となっているが、他の魔術師にとっては、彼女は学院の英雄なのである。 「ラスティール老師は、どちらに」 「儂はここだエラナ」 ラスティールは中庭で若い魔術師達を指導していた。現在の学院に導師は数えるほどしか残ってはいない。 「老師、御無事でしたか」 「ふ、まだまだ若い者には負けん」 腐敗した導師を追放したことで責務が増えたにも関わらず生き生きとしていた。 「相変わらずで、安心しました。今日は急ぎで参りました」 「何かね」 「はい、ベネラルが心配しています。リスタール城へおいでくださいとのことです」 「それは難しいぞ。いくら数の少ないとはいえ、学院の装備は巨大な物が多いし貴重な品も数々ある。これらを捨てていくわけにはいかん」 「時間を私がつくります。それとこの計画には、重騎士団長グランテールも協力するとのことです。それから学院には私が強力な結界を張り守ります、学院の書はこれからも必要ですからね」 学院の書は、貴重な物が多い、失うことをけして許されない物ばかりである。ここが戦場とかせば、それらは永遠に失われてしまう。 「そなたがそこまで言うなら、いいだろう」 「ありがとう御座います、まず結界の準備をはじめましょう、学院には初代王妃エラナ様が造られた六点の宝呪がありますそれを修復させて下さい。私は、その間に調べたいことがありますので失礼しますが」 「分かった、すぐに取りかからせよう」 ラスティールは、すぐに弟子達に命じる。 「で、エラナそなたほどのものが調べたいこととは何だ」 「師は、魔神獣と言うものをご存じですか」 「ま、魔神獣だと」 「何か知っているのですか。」 「あれだけは手をだしてはならん。奴らは魔族よりは劣る魔界の住人だが、奴らの残酷さは魔族以上のものだ。幸いに魔族ほどの魔力はないが、儂ら人間にとっては脅威な存在には変わりはない」 「やはり魔界の住人ですか。私が持っている書と一致しますね」 「奴らに合ったのか」 「ええ、私がここを去った後にアルウスが刺客を差し向けてきました。その刺客が、自らが魔神獣だと言ってました。それ以外にも闇騎士団の中にも何人か混ざっているようでした」 「さすがはエラナと言うべきか、よく魔神獣を相手として無事でいたものだ」 「私が合ったのは、おそらく下級の魔神獣だと思うわ。アルウスの実力にも及ばない奴らばかりだったわ。まぁ、西方軍王を名乗ってたあの魔神獣は強かったわ」 「軍王じゃと、そんな奴らまで来ておるのか。だが、アルウスが魔神獣の力を借りているとなるとそれは厄介になるやも知れんな」 「そうかも知れないわね、だけど軍王相手なら倒せない相手ではないわ。問題はそれ以上の実力者が出てきた場合ね」 「過去にそのような記録はない。じゃが、いてもおかしくはないだろうな」 学院魔術師の帝都脱出が始まった。学院を囲む帝国兵に対し、一斉に砲撃を行い一方を殲滅させる。 それが合図となり、重騎士団が学院へ入り、魔法騎士団の装備を運び出す。全てが出たと同時にエラナが、学院の結界を発動させる。 そこからは、ひたすら城門を目指し移動する。その間の敵は、最高導師ラスティークが相手をし、遅れ駆け付けたエラナがそれを援護した。 作戦開始と同時に、街にいたセレナ、ラフォーレもそれに協力してきた。 一流の魔導師三人と、司祭の力を借りれば帝都脱出はそれほど困難ではなかった。同時に最高指導者であるアルウスは、このとき剣王フォルクと戦い動ける状態ではなかった。 学院の装備は多かったが、帝都脱出計画は、数時間の後に完了をした。 城外には、ベネラルが差し向けた黒騎士団二〇〇〇騎の迎えもあり、彼らがしんがりを勤めた為に、ほぼ打撃を受けることも無かった。 「セレナ、どうしてここにいるのです」 エラナは、彼女を責め立てる。彼女は確かに彼女の魔法で眠らせしばらくは目が覚めないはずであった。 「お姉様、私も一緒に戦うわ。見ているだけなんて嫌よ。お姉様が、アルウスと戦いを始めた以上は、私もアルウスと戦うわ」 「済まないエラナ、これ以上体を酷使する君を見てはいられない。君の術は解かせてもらったよ」 死者を蘇らせるほどの彼に取っては、魔法で眠る者を起こすことはさほど苦にはならない。エラナ自信も本気でかけたわけでない為、セレナ自信の魔力も作用した。 皇帝・大臣などへの反旗は、個人が行ったものとしても、その一族全てに影響が及ぶ。 エラナが、反逆者と呼べばれれば、セレナも又反逆者となる。 「まぁ、いいわ。どうせ言っても聞かないだろうから。ただし、約束してちょうだい、魔法はけして破壊の為の力じゃないことを、特に、貴方の力はその為の力じゃないことは分かってるわね」 「分かってるわ、私はお姉様の力とは根源を全く異なる力よ。」 エラナが、万能タイプの魔術師だとすると、セレナは、攻撃浄化タイプの魔術を得意とする。司祭系の魔法に近いが、それでも十分に破壊を導くことができる。 だが、彼女がエラナほどの力を持ち得ないのは彼女が優しすぎるのがその理由でもある。だからこそ、エラナが彼女を戦いに巻き込みたく無かったのである。 「エラナ済まない」 ラフォーレは再び謝った。 「くどいのは嫌いよ」 「ああ、だが、君に頼まれた、だけど剣王フォルクを動かすことはできなかった。あの人は、一人で切り抜くつもりです」 「やはりね、あまり期待はしてなかったけど、これから激しくなる戦いを考えると、あの人のような剣格はかかせないのよね。集団戦になれば、私のような力を持つ魔術師は戦いづらくなるから・・・、でも、いつまでもそんなことは言ってられないわ」 「でも、剣王フォルクは、私達が期待していなかったことをしていただいきましたから、それで、十分としましょう」 「そうね」 二人は、見つめ合い頷く。エラナはラフォーレが苦手だった、彼がすることに間違いがない。そして彼は自分を気遣ってくれる、両親に愛を受けなかった分それがむずがゆかった。 「エラナ殿、貴行の作戦のほど感服しましたぞ」 そう言ったのは、重騎士団長グランテールだった。 「いいえ、貴方の重騎士団の力が無ければ難しいことだったでしょう。それに、黒騎士団の援軍は想定してませんでした。おそらくフォーラル殿が、エラナ殿の作戦を予測したものです。黒騎士団の援軍が無ければ、多くの犠牲をだしたことでしょう」 エラナの作戦は、彼女が一人で考えたもので、フォーラルには一言も教えてはいない。が、彼はその全てを予測したのだ。ベネラルは、それを聞き入れたにすぎないが、彼の判断も迅速であったことも間違いはない。 「さぁ、城まではまだまだあります。ここからは黒騎士団第二軍団長のこのサーディンがご案内いたします」 サーディンは、フォーラルの指示した道順でエラナ達を案内し、無事にリスタール城へと向かい入れた。 リスタール城には、ベネラルが旗を上げたとの噂を聞き及んで多くの人々が兵士として志願してきていた。 それに加え、魔法騎士団一〇〇〇騎、重騎士団四万騎を加えて、城におさまらないほどの数となっていた。 集まった兵力、およそ50万。 同時に、ベネラルはついにフォーラルを帝位に尽かせることにした。後にフォーラルは北帝と呼ばれることになる。 これは、自軍が真の帝国軍と示す為でもあるが、帝国外の国々を意識した為でもあった。 新皇帝となったフォーラルは、これまでの帝国の法律を全て排除し、新たな法律の作成を行った。 同時に、リスタール城におさまらなくなった軍を二つに分けることにし、自ら帝都を黒騎士団の居城であるリクイド城へ移り、ここにベネラル率いる黒騎士団、魔法騎士団を中心に20万の兵を配置し、これまでのリスタール城は、本来の城主スラットに任せ、重騎士団を中心とし30万の兵を配置した。これにより、帝都ラクーンを攻める為の二本の道を完全に押さえた。 これにより、帝都ラクーンは完全に孤立化することができた。 ただ、問題は多く、騎士団以外の者は戦闘訓練を受けているわけではないので、兵の訓練を行わなくてはならなかった。 その任には、リスタール城ではグランテールが付き、リクイド城では黒騎士団第三軍団長のブラッサムが付いた。 エラナ自身は宮廷魔術師に就任し、同時にラスティークより仮ではあるが最高導師の位を譲られた。彼女は、リクイド城に着任したので夜は自宅に戻っていた。 夜は主にフィーラに魔術を教える時間としていた。 「随分と良いみたいね。三ヵ月足らずでここまでできるとは思わなかったわ」 彼女が来てから三ヵ月、宮廷魔術師になってから半月が過ぎていた。 「覚えることは苦にはなりません」 フィーラは元々書物が好きだし、記憶力においては群を抜いていた。 「そろそろ実技の方も教えれそうね」 普通、魔術師になるには最低三年間は古代文字を覚える時間と魔道原理を理解する為に費やされるが、これまで古代文字を使っていた彼女にそれを教える必要はないしが三ヵ月で実技を覚える者はいない。エラナが学んだのは古代文字だけだが、それでも一年を有している。原理は生まれながら使えた彼女に知る必要もないし、実技も必要ない。文字を覚えれば後は実力を伸ばすだけである。 その日、リクイド城には主な将が、今後の作戦を決定する為に集まっていた。城の移動は、エラナが城ごとに転移装置を設置した為に、容易なものとなっていた。 しかし、作戦会議が大詰めとなったころ、事態は急変した。 「申し上げます。上空を黒く被う魔物が城を目指しております」 「魔物だと、その姿は」 騎士は、見た間々を伝えた。 「魔神獣」 そう言ったのはエラナだった。 「魔神獣だと、まさか、アルウスめ、背に腹は変えられんというわけか」 全員が外へ出たとき、魔神獣は空を被い、城へ向かっていた。その数、三万と空を黒く覆っていた。 「何て数だ、魔法兵団、弓隊を配置させろ」 「はっ」 騎士が、あわて走っていく。 「エラナ、砲台の準備を頼む」 「分かったわ」 「サーディン、ブラッサム。黒騎士団を集結させろ」 ベネラルは次々と指示を出していく。 『御意』 二人は、あわてて駆けていく。 戦いは始まった、はじめに魔法騎士団の魔力砲撃が行われた。が、その効果はたいしたことはなかった。 弓隊の攻撃も行われたが、人の引く弓では彼らの鱗を貫くことすらできなかった。 逆に、魔神獣からの魔力砲撃を受けることになってしまい、多くの兵が失われた。 魔力砲撃を終えると、城内へ急下降してきた。 魔神獣は強く、黒騎士団ですら三人がかりで一匹を倒すのがやっとであった。 だが、逆にベネラル達にとっては強敵というほどでも無かったが、一匹いっぴきが、人間の将軍クラスの力を持っていた。 「くそ、きりが無いな」 ベネラルは一太刀で、数匹を一度にしとめていく。 「風の神ジェディンよ、 我と汝の盟約を持ち、 我と汝の力を持ちて、 すべてを切り裂く刃となれ!」 フェーナの呼び起こした鎌鼬が魔神獣を切り裂いていく。 「全てを照らしだす光よ 聖なる力となりて、 悪を撃つ力となれ!」 ラフォーレの光りの魔法が魔神獣を消し去る。 セレナは、数枚の札を取り出し術の詠唱を始まめる。 「封印!」 セレナの創り出した、魔法陣に魔神獣が飲まれていく。 だが、彼ら彼女らが、そうしても魔神獣の数はまだ半分以上の残っていた。 「炎の神フレンデリアよ、 汝、我が呼びかけに従い、 我と汝の全ての力を持ちて、 我が前の敵を滅せよ!」 フェーナは、自らが禁忌とする最大の火炎魔術を撃ち放つ。 「魔力剣(マジック・ブレード)!」 エラナは、物質化能力で魔力剣を産み出す。 「風よ、我を導け」 上空へ舞い上がると、剣を掲げる。 「魔散弾(マジック・ブリット)!」 彼女は、右手に魔力剣、左手に魔力球を制御していた。今彼女は、同時に一つの魔法と、高度な二つの魔法を操っている。彼女でこその力である。 彼女は、魔神獣の大将らしき者を見つけると一気に突っ込み、魔力剣の一振りで大将らしい魔神獣を倒すと、一気に魔力球を投げ付けた。 「超核爆破(アトミック・ボム)!」 その瞬間、そこから巨大な茸雲が立ち上った。この数週間で王妃エラナから学んだ術である。 「お姉様!」 セレナが叫ぶ。 「エラナ!」 ラフォーレが茸雲へ向かって走り出すが、エラナは、茸雲の上空より姿を現した。爆発の瞬間、エラナは防御壁をつくりだし、防ぎきっていた。第一撃目の一刀を加えた瞬間に既に、術を切り替えていた。エラナだからこその瞬間技である。 「やりすぎよ」 降りてきたエラナに王妃エラナがそう言った。 「いいでしょ、試してみたかっただけだから」 王妃が使える術はエラナが使う術よりも広範囲攻撃の術が多く。破壊力もこれまで彼女が知っていた並みの術とは比べ物にならない。 エラナの一撃で、魔神獣の殆どは消え去った。が、同時にフォーラル帝国軍は三万人近い兵を失った。又、城壁の破損、魔法騎士団の兵器など、大きな被害を被った。 さらに、城外には巨大なクレーダが生まれ、地形を変えてしまった。 これは、さらなる戦いのはじめを告げる序曲にすぎなかった。 第二部 メニュー |
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