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第二部  第四章 戦乱


エラナ率いる魔法騎士団が村を出発したのは、軍議の翌日であった。
総勢二〇〇名だけの騎士団であるが、大砲の輸送を行なう為、行軍のスピードはゆっくりとしている。
エラナは乗りなれない馬の上で苦戦していた。ローブを着た状態では乗り降りに不便があるし、腰も痛くなる。
「エラナ様、馬車の方へ移られたらどうですか」
見かねたカルテが進言する。
「大丈夫です、こうも長い間乗ったことが無かったのだけです。早いうちになれておかないと今後、困りそうですから。それに馬車では指揮はとれないわ。視界の広い馬上の方がいいわ」
「わかりました、もし痛むのようでしたら鞍の上に毛布を乗せれば多少は楽になります」
エラナの鞍は、今回彼女の為に準備した新品、馬に乗りなれている騎士でも新しい鞍になれるまで時間がかかる。彼女のような魔術師にはかなり応える。
「有難う・・・、わぁぁぁっ」
この時エラナの馬がバランスを崩して前倒しになる。彼女はバランスを立て直すことなくそのまま落馬した。とっさのことに魔法を発動させるにも間に合わなかった。
「あ、痛!」
落馬したときにエラナは腰と背中を強く打ち付けていた。
「エラナ様」
「あ痛たた・・・」
カルテは馬から降りてエラナに手を貸す。エラナは彼の手を取って何とか立ち上がる。
「大丈夫ですか、やはり馬車にお乗りになった方が」
「いいえ、もう少しやってみるわ」
結局、この日野営地につくまでにエラナはこの日三度落馬した。二度目は上り坂で、三度目は森の中から飛び出てきた野兎に驚いた馬が急に立ち止まったことから落馬した。
数年前にベネラルやラクレーナ達と旅をしていた頃はラクレーナに乗せてもらっていたので一人で乗ったのは今回が初めての事である。
「エラナ様、馬車にお乗換下さい。これでは戦場についたときに指揮が取れなくなります。それに軍の士気にも影響いたします」
「もう、こうなったら乗れるまでやるわよ」
エラナは意地でも馬に乗り続けた。次の日もエラナは四度の落馬と、三度落ちそうになった。カルテの提案で馬を乗り換えもしたが結局は落馬という結果になった。
「あああっ、もう」
エラナのローブは、魔法がかかっているので破れることはないが汚れないということは無い。
三日目はローブを着ずに挑戦したがやっぱり落馬、エラナには馬術の才能が無かった。どんな者でもある程度練習すれば乗れないことも無いが、彼女にはそれすらも出来なかった。
四日目、エラナは自分に忠実な魔法生物を造った。見た目は馬であるが、多少普通の馬より大きく、食事は雑食だった。
普通の馬よりも大きく背中を広くしてあるので、多少バランスが取りやすい。その上、自らが作った生物ゆえ意思も伝わりやすい。
「これなら大丈夫なはずよ」
カルテはかける言葉を思いつかなった。確かにエラナが合成生物(キメラ)を造れることは知っていたが、こんな所で造られるとは思いにもよらなかった。
四日目、落馬の回数は減った。だがそれでも二度落馬した。
四日目に到着した村で鞍をエラナ用に多少作り替えることで、彼女の落馬は無くなった。理由として使っていたのが男性用であったこと、普段彼女が背保たれのある安楽椅子に座っている癖で重心が後にあることがあった。腰の部分を広くするのと後の縁を高くするになった。さらにエラナが鞍に魔法をかけることで補われた。
結局、エラナは魔法の力を借りなければ馬には乗れないことがはっきりとした。
五日目の日暮れには、多少の普通駆足(キャンター)ぐらいは出来るようになった。
「カルテ、随分と遅れてしまいましたが今日中に目的地までは到着出来るでしょう。皆にそのように伝えて下さい。それから、偵察部隊を組織して下さい」
この日で六日目、本当なら三日で到着している予定だった。
「畏まりました」
日が暮れる前に魔法騎士団は目的地に到着した。
戦場では既に戦いが始められ、重騎士団が孤立した状態となっていた。
「まずいわね、大砲を持ってあそこまで行くのは無理ね。カルテ、私は先にあちらに向かいますので、私の合図があるまではここで隠れていて下さい」
「どのようにしてあそこまで」
「下からいけないなら上から行けばいいことだわ、それにあれなら短い間でしたら飛ぶこともできるわ」
エラナが造った合成生物は、飛行能力まで持っている。その気になれば、エラナが馬ごと飛んでく事も可能である。
「わかりました、くれぐれも落ちないように気を付けて下さい」

エラナは日が暮れると闇にまぎれて重騎士団の陣に向かった。
「何ものだ!」
突如舞い降りたエラナに見張りの重騎士二人が槍を突き付ける。
「私はエラナ・フレア、グランテールに取次いでちょうだい」
「も、申し訳ありません。ご案内いたします」
既に重騎士団全員にエラナの事は伝えられている。
「お預かりします」
別の重騎士が彼女から馬の手綱を受けとる。
「少し肉を食べさせてあげて」
「えっ」
馬は肉は食べない。草食性であるのだから、肉を食べる馬なんて騎士には初耳である。
「馬じゃないの、それ以上は聞かない方がいいわ。それより案内してちょうだい」
「はっ」
彼女は重騎士に案内され、陣中で最も大きな天幕に来た。
「有難う、後は自分で行くわ」
重騎士は一礼をして持ち場に戻っていった。彼女はそれを見届けると天幕に入った。
「おおエラナ殿、待っておったぞ」
中では軍議が行なわれている最中であった。
「グランテール、久しぶりですね。それにしても私が来るまで待てなかったのですか」
「そう言うな、この先には幾つかの村がある。これ以上は退けんかったのだ」
「まぁいいわ、魔法騎士団を近くの丘に配置してあるわ、予定通り今後は私が指揮を取るわよ」
「うむ、ベネラルにそう言われておるからな」
「それじゃ、まず現在の状況と軍の構成を教えて、作戦を考えるのはそれからよ」
戦いが始まったのは二日前、三度戦って相手に多少の犠牲を出した程度だが相手に囲まれてしまったの事だった。
重騎士団はグランテールを筆頭に四人の騎士団長がいおり、それぞれに軍師がついている。総勢四万騎、怪我人が出ているが死者は出ていないとの事だった。
「なるほどね、一隊には陣を守ってもらうとして、中軍・左軍・右軍の構成ね。まずそこから変えるわよ、左軍と右軍をそれぞれ二部隊に編成し直して中軍を第一部隊、左軍の半数を第二部隊、右軍の半数を第三部隊、左軍残りが第四部隊、右軍が第五部隊、本陣を警護する部隊が第六部隊にするわ。あと丘にいる魔法騎士団は最終的には第一部隊に組み込むわ」
エラナが作戦を考える上で問題点があった。重騎士団は速攻性の作戦には向かないことであった。
「目的はできるだけ、敵を丘に近付けること、それから基本的には防衛陣形で混戦にならないようにすること、混戦になると魔法騎士団の力は使えないわ」
「防衛陣形か、それならば我らの最も得意とすることだ」
重騎士団は、鋼の鎧に長槍と盾を構えて進む戦いが彼らの戦い方である。
「それと黒騎士団も既に到着しているはずよ。今晩中に私は黒騎士団と合流してそちらで指揮を取るわ。指示は私が魔法でグランテールに伝達するから皆にそれを伝えて欲しいの」
「わかった」
「じゃぁ、私は行くわ。作戦はさっき説明したとおりよ」
それだけ告げるとエラナは天幕を後にした。見張りの重騎士に馬小屋の場所を聞き、馬に跨るとまた天を駆けていった。

黒騎士団は、魔法騎士団が隠れている丘とは全く正反対の位置に隠れていた。黒騎士団は重騎士団と違ってエラナとの面識がありいらぬ混乱は起らなかった。
彼女の到着を知ると団長のブラッサムが近づいてきた。
「エラナ殿、お待ちしておりました」
黒騎士団はその名のとおり黒い甲胄を身に付けている。彼らの鎧は、かなりの重さがあり訓練を付けた彼らだからこそ動き回れるが普通の人間では立っていることすら難しい。
「ちっといろいろあって遅れてしまったけど、明朝からは私が指揮を取るわ。それから私はこちらで指揮をとるのでよろしくね」
エラナが遅れた理由は言うまでも無くエラナが落馬していたことが理由である。それさえ無ければ十分に間に合っていた。
「畏まりました。我らがお守りいたします」
「それには及びません、剣の心得はあります」
ただ、馬上での戦いとなると不安な所は多い。
「戦いながら指揮を取れば、その分指示が伝わるのに遅れが生じます。こちらで選任した九名をお連れください」
黒騎士団は戦場では常に複数で組む、いかに屈強な黒騎士といえども全面の敵と背後の敵を同時に相手は出来ない、それが理由で命を落す騎士も少なくない。黒騎士団がこれまで勝利し続けてきた理由に相手を確実に仕留めて行き、負け戦になろうと犠牲を少なくすることによって、最終的な勝利を手に入れてきた。その為、黒騎士団では三の倍数が部隊数として使われる。
「好きにするといいわ、だけど私の全面には立たせないで、視界を確保することもあるけど、いざ戦うときに上手く戦えなくなるわ」
「わかりましたそのようにいたしましょう」

翌朝、重騎士団が防御陣形で陣を出陣したことによって戦いは始まった。
「それでは行きますよ」
エラナが騎乗する。重い鎧を身に付けている黒騎士団は既に騎乗済みである。エラナはブラッサムから長槍を受けとる。
「敵は我々が倒します故、指揮の方よろしくお願いします」
「行くわよ」
エラナは全軍に合図を送ると同時に先頭を切って、馬を走らせる。
黒騎士団はちょうど敵軍の反対側に隠れていたので、完全に背後を取ることに成功するが、たった三〇〇〇騎で対する相手は一〇万の軍団である。
それでも国内での戦い黒騎士団の脅威を知らないものはいない。存在だけでも相手の士気を奪うことは出来る。
すぐに乱戦となり、エラナも直接敵を相手にすることになった。何人かに槍を突き出すが、四人目を貫いたところで彼女の槍は真っ二つに折れた。
「ちっ」
エラナが手綱を強く退くと、彼女が騎乗する馬が炎を吐き出す。
「ブラッサム、そろそろいいでしょう。錐行の陣を取って下さい」
「はっ」
ブラッサムが手で合図を送るとばらばらに戦っていた黒騎士団は陣形を整えた。
「一気に駆抜ける。敵を倒そうと思うな」
黒騎士団はエラナを先頭に、敵を倒さずに敵陣を駆抜ける。撹乱させることが目的で倒すことが目的ではない。この間にも重騎士団がじりじりと前に前にと進んでいる。
「重騎士団の第四部隊と合流するわよ。ブラッサム、これまでのこちらの被害は」
「数名、傷を負った者がおりますが全騎無事です」
「さすがね、足を止めるな」
黒騎士団が重騎士団と合流しようと近づくとそれをさせまいと敵が殺到する。
「ブラッサム、合図を」
照明弾が上空に打ち上げられる。同時にこれまで防御陣形を取っていた重騎士団・第四部隊が攻撃に出る。だが、この照明弾は敵に別の策略があると思わせる為のもので、既に指示は伝わっている。
エラナが選んだ作戦は、重騎士団の防御陣形で壁を造り、黒騎士団で混乱させた後に端から徐々に戦力を裂いていく方法だった。
端から戦力が削られていくと同時に新たに重騎士団が動き出す、この繰り返しで壁を移動させつつ敵を魔法騎士団が隠れる丘に近付けていく。
戦いが始まった六時間、方位陣形は完成しようとしていた。
「結構、上手く行ったみたいね」
エラナが直接敵を相手にする状況は既に終了していた。彼女は少し離れた場所から戦況を見ていた。だが、それでも敵の数はそれほど減っているわけではない。
「エラナ殿、こちらの被害は総勢で三〇〇程度のようです。相手側は一万程度のようですが」
「そんなものでしょう、もう少し敵の被害を大きくしても良かったですがさすがに包囲することを主にしていますからまずまずの戦果でしょう。さて、そろそろ魔法騎士団の出番ですね」
『カリテ』
魔法騎士隊長のカリテに呼びかける。
『畏まりました』
次の瞬間、丘から一斉に魔力砲が発射される。砲撃は数分間に及び敵を混乱の真っただ中に誘い込む。
『もういいわ』
エラナは砲撃が終えるのを待つと、全軍に突撃命令を出した。
騎士は混乱したときでも冷静な判断が出来るように訓練されているが、民兵はそうではない。民兵が多ければ多いほど混乱したときの収拾が難しくなる。騎士の数で圧倒する黒騎士・重騎士・魔法騎士団連合軍、しかも騎士だけの軍との事もありこうなればエラナの勝利で終えることを告げていた。
混乱する民兵に邪魔されアルウスが差し向けた軍の騎士は実力を発揮すること無く倒されていく。

日が暮れる頃には、ほぼ戦いは終わっていた。
ただ敵軍一〇〇騎の闇騎士がエラナに向かって斬り込んできた。
「防げ!」
ブラッサムが指揮するものの、何人かはエラナの元までたどり着いた。
「エラナ殿、ここは我らにお任せを」
エラナは馬を下がらせようとしたが、先頭に立つ闇騎士を見て立ち止まった。
「ブラッサム、先頭の男には手を出さないで、そいつは私が相手をします」
彼女の目の前で一人の黒騎士がその闇騎士の手にかかって倒れた。
「魔力剣(マジック・ブレード)!」
エラナは馬上から上空へ飛び上がるとその闇騎士目掛けて斬り込んだ。
闇騎士は彼女の剣を闇の剣で受け止める。
「やはりね、火球(ファイア・ボール)!」
「俺にその程度の術が通じるものか」
「魔炎弾(カオス・フレイム)!」
魔法剣を解除し、一気に解き放つ。
ものすごい音で爆発するが、倒れたのは彼が乗っていた馬だけであった。
「なるほど、貴様がエラナか」
「大地岩裂(ストーン・ブラスト)!」
石つぶてが闇騎士に襲いかかる。
「無駄だ」
「氷傷凍射(フリーズ・ブラスト)!」
「法皇審判(ジャスティス)!」
「なっ!」
闇騎士はそれで完全に消滅した。
「ふぅ、あの程度で苦戦するなんてかなり魔力が落ちてるわ」
エラナは基本的な魔術である程度ダメージを与えられると読んでいたが、全くの効果がないほど彼女の魔力は減少していた。
「エラナ殿、今の相手は」
残っていた闇騎士団を片付けたブラッサムが尋ねた。
「今のが敵の指揮官です。そしてあれが今後相手にしなくてはならない相手よ。詳しく教えておきたいところだけど、何度も説明したくないからベネラルと合流してからにしましょう。ブラッサム、後はお願いします。私は少し休みます」
エラナの疲労は極限まで達していた。続けての戦いでかなりの魔力を消耗し魔皇クライストと戦いからの疲労が溜まっており、先に西方軍王ラティールと戦ったときも本来の五〇%程度の力しかなかった。
「お任せください」
「頼んだわよ、それから見張りだけは確実にしておいて戻ってくる可能性もあるわ」
エラナは自分の天幕に入るとそのまま横になってすぐに深い眠りへと入っていった。

翌朝エラナは昨日の報告を受けていた。
「我軍の被害は、黒騎士24名・重騎士178名の戦死者です。対して敵軍の被害は騎士4543名・闇騎士185名・民兵1万8328名となっております。ただ魔法騎士団に消されて確認できないものもおります故、もう少し多いかとは思います」
魔法騎士団の魔道砲は普通の人間ならば跡形もなく消し去る威力がある。実際にはあと数千人が死者の列に加わると考えられる。
「こちらが202名に対して2万3056名ですね、まずまずの戦果でしょう。あと、捕虜はどのくらいですか」
「1万9543名です。死者とあわせて5万ほどの戦力を奪ったことになります」
「半数以下の戦力でそこまで戦えたのですから、上出来でしょう。ですが、アルウスは100万の兵力を動かすことも出来ます」
本軍ベネラルが有している兵力は、半数以上を国境の防衛に回していることもあり、黒騎士団7000と騎士団5万の戦力があり、それ以外にリクイド上に騎士団5万、先代黒騎士団長ブラネスに仕えていた帝都の隣城リスタールの太守スラットも味方に付くことになっているが、ベネラルの総兵力は20万が現兵力と言っても良く、アルウスが持つ100万には到底及ばない。
ただまだ中立を保っている者が多い為、それらを加えれば対抗できなくもない。帝国全土の兵力を合わせれば200万はある。
ただフォーラルの情報工作で、ベネラルの軍勢が既にリスタール城にあることはアルウス側にまでは知られていなかった。
「グランテールは、この近くにある古城で待機して下さい。黒騎士団と魔法騎士団は私がリスタール城まで運びます」
「ところでエラナ様、公爵領の仲間はいかがなされますか」
カルテが尋ねる。
「今回は連れてはいけないでしょう、リスタール城にいるものに参加してもらいます。それよりも、魔法騎士団に転移の陣をつくらせて下さい。さすがに私でも陣無しではそれだけの人数は運べません」
「畏まりました」

魔法陣を準備するのに二日かけてエラナと黒騎士団・魔法騎士団がリスタール城へ到着したとき、既にアルウス率いる30万の軍勢が押し寄せていた。リスタール城を越えてベネラルのいる国境へ向かう軍勢であったが、既にベネラルが入城していることもあり足止めをされていた。
騎士団を待機させエラナは一足先に城へ向かった。
「このベネラルが反逆者だと、片腹痛いわ。帰ってアルウスに伝えろ、反逆者は貴様の方だとな、さぁ、出てゆくがいい、それともここで首と胴を切り離されるのがよいか」
ベネラルと太守スラットはアルウスの使者との謁見中であった。
彼の気迫に、使者は腰を抜かし逃げ去るように部屋を出ていく。この帝国に、ベネラルの恐ろしさを知らぬものは居ないといってもよい。しかも、このリスタール城は帝国一警固な城であり、太守スラットは篭城戦を得意としていた。
「ベネラル卿」
太守スラットがベネラルに呼びかける。
「分かっている、スラット殿、兵を集めて下さい。私はやらねばならないことがあります」
ベネラルは少し前に配下の黒騎士団を、リクイド城へ戻していた。
「承知、皆のもの、開戦の準備をいたせ、相手は逆賊アルウスなり」
スラットの声で、城内は大きく動き始める。
「フォーラル、お前は直ちにリクイド上へ立ち戻り、我が黒騎士団を連れてきてくれ、それから・・・」
「私ですか、ベネラル」
エラナは隠れていた柱の影から姿を現わした。
「エラナ、いつの間にここへ」
ベネラルは彼女がここにいることに驚いていた。
「私には、距離はあって無きようなものですよ、全ての調べは付いています。ブラッサムは既に城内へ入っております」
「さすがはエラナ、それだけおれば十分だ。ではフォーラル、作戦の方を頼むぞ」
「畏まりました、ここまで来た以上は、アルウスは生かしてはおけません。この私にお任せください」
ベネラルに指示されると作戦を立てる為に謁見の間を後にした。
この時、謁見の間に残されたのはベネラルとエラナの二人となっていた。
「で、エラナ、アルウスの実力のほどはどうだった」
ベネラルは、彼女にそう尋ねた。
「あの者の実力があることは確かです。ただ、力の源、使い方に問題がありますね」
アルウスの力の源は、闇の力、そして彼がそれを使用するのは、破壊の為だった。
「なるほど」
「正しき使い方をするなら、脅威でしょうが、全ての術を極めた私と比べるならば、子供のままごと程度のものです。場所を考えない無かったのでしたら、あの時の襲撃でアルウスはこの世のものでは、なかったでしょう。あと、策士としての知識は持ち合わせているようですが、フォーラルほどではないわ」
アルウスがのし上がれたのも、彼の策士としての知識だったが、政治家の策士としては一流であるだろうが、戦いにおいては素人同然といっても良かった。
「とるにたらんか」
「気になる点もあるけど」
「どんなことだ」
エラナが、最強の術者であることは間違いの無いこと、ベネラルですら、彼女に勝てる自信は無かった。彼の間合いで戦うなら、万に一つの勝ち目はあるだろうが、一度、彼女の間合いで戦われたならば、彼に勝ち目はないと思えた。
「アルウスは、私に対して刺客を送り込んできたわ。だけど、それらは人間ではなかったわ。逆にこちらから仕掛けてみたけどやはり人間でないものが混ざっていたわ」
「人間では無い、何者だ」
「奴らは、魔神獣と名乗ってましたけど、私もそれらを聞いた覚えはないわ」
「そなたも知らん敵か・・・、何か胸騒ぎがするな。すまないが、それに付いて調べてはもらえんか」
ベネラルは、少し考え込んでそう言った。
「できるだけ努力はしてみるわ」
すっと、彼女の体は書き消され、入れ替わりで、フェーナが部屋へ入ってくる。
「戦いが始まるのですね」
フェーナはベネラルにそう尋ねた。
「人間は、愚かだと思うか」
「そうは思いますが、それが人間が発展した理由でもあると考えると、複雑な心境です」
人間は、戦いの中から発達してきた。古い国が滅び新たな国ができることによって、文化の発展をとげてきた。全く争いの無い、世の中ならば、人間の文化の発達はここまでは無かったであろう。
だからといって、それが許されることでも無い。
エラナは二人の話を隠れて柱の影から、聞いていたがそれ以上聞かずに今度こそ転移した。

リスタール城の兵力は、スラットの兵団3万とベネラルの黒騎士団1万、騎士団5万の合計9万の兵力だった。対するアルウスの兵団は30万であったが、城内に黒騎士団がいることで、その士気は高かった。
30万の兵から、城を守るには十分すぎるほどの兵力である。
ベネラルは、城主スラット、フォーラルと共に、城壁の上で、作戦の確認を行っていた。
「私が、考えた作戦は、まずは、黒騎士団を中心とする作戦です。恐らく、敵は城内に黒騎士団がこれだけそろっているとは思ってはいないでしょう。間違いなく、黒騎士団の殆どがリクイド城へ戻っているのを、確認していると思います。そこで、あえて義兄上に、スラット殿の兵の半数を連れて出陣していただきます。そこで、恐らく激戦が行われると思いますが、事前に黒騎士団を後方に配置し、背後から襲撃します。そうすれば、後方の攻撃であり、黒騎士団の攻撃となれば、敵の混乱は間違いはないでしょう。そうすれば、黒騎士団は、帝国最強の軍団です。あっと言う間に敵を追い払うことができるでしょう」
フォーラルの作戦は十分すぎるものだった。単純な作戦ではあるが、黒騎士団の知名度を利用するという混乱作戦である。
「なるほど、十分だな」
フォーラルは常にベネラルの元で参謀を勤めてきた。これまでの公国との戦いでも彼による功績はかなりのものである。
「もし、ご希望でしたら、敵の退却路に伏兵を配置することもできますが、いかがしますか」
「よし、やるからには徹底的にやった方がいいだろう」
三人の元に、エラナが近付いてきてベネラルに話しかけた。
「ベネラル、面白いものを用意したわ。使ってみる」
ベネラルを呼び捨てる人物はエラナ以外には居ない。その彼女が、彼に見せたのは、一つの巨大な筒状の兵器だった。
「大砲か、石状の物だったがファーマ公国の奴らが使って来たことがあったな」
「確かに彼らも持っていますが、ファーマの大砲はそれほど完成されたものではなく誘爆の可能性があります。理由としてあげるならば、火薬の爆発に筒が耐えられないことによるもの。だけど、私の筒は魔法金属を使用し、打ち出すのは魔力です。公国のものとは比べ物になりませんよ。仕組みとしては、少量の魔力を内部で増幅して魔力そのものを魔法として打ち出します。ただ、残念ながらこれは一台しかありませんし、かなり巨大な物だけど威力は確かよ」
その大砲の大きさは、ほぼ普通の民家一件分の大きさはあった。先の戦いで魔法騎士団が使用した物の数倍の大きさはある。
「恐ろしい物を造ったな」
「以前から開発をしていたんだけど、こんなに早く使えるとは思わなかったわ。ただ残念な事に、魔力の充電に一分と増幅に三分を有するのが欠点と言えば欠点ね。それから、テスト運転をしてないことね」
「合計で四分か、連続では使えんというわけか。ん、テスト運転をしてないだと」
「時間が足らなかったの、私の計算に間違いはないわ」
「そなたがそう言うならいいだろう」
ベネラルの言うとおり、連続で使用する完全な兵器には程遠いが、それでも十分に使える物であるのは間違いはなかった。
「最も、一発一発は、私の魔力弾の方が威力は大きいけど、ある程度の魔術を使えるなら、これの充電は可能よ」
「エラナ殿、これを早速ですが、使ってみましょう。もしかしたら、これだけで、アルウス軍を撤退させれるかもしれません」
黙って聞いていたフォーラルがそう言う。
「構わないわよ、その為に持ってきたのですから」
実際、エラナとしてはテストしてみたいだけではあるが・・・
「はい、義兄上すみませんが作戦を変更したいと思います、エラナ殿、これを城門前に置き、これと同じ物を幻影で構いませんので、数十台が配置されてるようにしていただけますか」
「構わないわよ、最初に一発だけ発射して、威力を見せれば、自ずと敵はその数を恐れて撤退するという作戦ね」
エラナもこれまで不敗の戦略・戦術家である。フォーラルが言わんが事は理解していた。
「はい、同時に義兄上に先程と同じように半数の兵を率いて出陣して頂けるならば、もっと効果は大きいでしょう」
「大砲の恐怖と、私の恐怖、十分すぎる作戦だ。よし、フォーラル、お前に任せる」
大砲は、その場で恐怖を知ることになる。そして、ベネラルの恐怖は誰しもが知っていること、いくら倍以上の兵力を持っていようと、士気を失った軍では勝機はない。
黒騎士団が、これまで十倍以上の兵を持つ公国を打ち破ってきた事実が消えることはない。
「後は、先程の作戦と同じで良いかと思います。先程の作戦だとある程度の、犠牲が出るかと思います。ですが、こちらの犠牲は極力、少ない方がいいですからね」
味方に多くの犠牲を出しての勝利は、本当の勝利にはならない。犠牲を出しすぎては、戦争というよりただの殺し合いなってしまう。
「スラット殿、魔導師を何人か、貸していただけますか」
「ああ、かまわんよ。ただ、城内には一〇人しかおらんがな」
「一人でも、十分ですよ。それに魔術師ならかなり連れてきてるわ。必要なら小型の大砲もあるわよ」
エラナの巨大大砲は、充電に必要とするのはたったの一人、人数が増えたとしても、充電時間の短縮はできるが、増幅時間が長い為に発射が著しく早くなることはない。時間が短く連発できるならば、代わりがいくらいても困らないのだが。

アルウスの軍団が城へと迫ったのは、それから三日後のことだった。
30万の軍勢が、長く延びている。この地域は、山が多く開けた地域は数少ない。開けた地域には、自ずと街が立っている。帝国領内に置いては、過去に平野で戦いが行われた実績はない。
アルウスの軍が城へ迫ると、ベネラルは城外に2万の兵を引き連れ、立ちふさがった。兵士の影からは、エラナの造った大砲が姿を見せていた。
アルウス軍の先陣を率いているのは、帝国左軍将のフロテイスだった。彼は、アルウスに忠誠を誓う一人である。
「先陣は左軍将フロテイスか、あまり楽しめそうにもないな」
帝国においての将軍職は、その強さによって任命される。功績等もあるが、基本的に強さによる者が多い。
現段階の帝国において、フロテイスは将軍ではトップクラスである。実際には、それ以上の位は存在するが、今の帝国にそれだけの人物は居ない。
エラナも彼をそれほど危険視はしておらず、帝都でアルウスの腹心を殺して回ったときもリストにすら入らなかった。
「そこに居るは、黒騎士団長ベネラルか。我は、左軍将フロテイス、そのような兵では我が軍にかなうまい。潔く降伏されよ」
「フロテイス将軍よ、笑わせてくれるではないか。その言葉、ベネラルと知ってのことならば褒めてやろう。だが、これを目の前にして、その台詞がいえるか」
大砲の周りから、兵が消え大砲が前に出てくる。
「ふっ、何か考えがあるかと思えば、そのようなおもちゃを出すとはな。それがこれまで公国と戦ってきたベネラルとは思えんな」
「そうかエラナ、奴はあんな事を言っておるぞ」
ベネラルの影に隠れていたエラナが全面に出てくる。
「そう、じゃそのおもちゃで何が出来るのか見せてあげるわ」
エラナは砲台に魔力を込めていた魔術師を見た。魔術師は、準備が完了したと彼女に合図を送った。
「打て!」
エラナの一声で、大砲が火を吹く。大砲の一撃は、アルウス軍の中央を完全に吹き飛ばした。同時に、数十台の砲台が前に出てくる。と、同時にその砲台も砲撃を行う。
第二撃目以降の砲撃で、アルウス軍の中軍は、ほぼ壊滅状態になっている。
ベネラルは、それが幻影と思い砲撃予定は無いものだと思っていたが、すぐにその真意に気が付いた。それらは、エラナが打った魔力弾であることを。実際には魔法騎士団の大砲も何台か混ざっていた。
「全軍、突撃!」
敵軍が混乱するさなかに、ベネラル率いる2万の兵が斬り込んだ。エラナもベネラルに続いた。
「ベネラル、雑魚は私が引き受けるわ。貴方は敵将でも討ち取ってきて」
さほど力がないので両手で槍を扱っているが、確実に一人づつ討ち取っている。
「わかった」
ベネラルは、そのまま一気に斬り込むと拒む敵兵に対して一振りで数人づつを斬り捨て、一気にフロテイスの元へ行き、これまた一刀のもとに斬り捨てた。
「左軍将フロテイス、このベネラルが討ち取った」
ベネラルの叫びは、山々にこだました。それが合図となり、中軍後方へフォーラル率いる黒騎士団が斬り込んだ。
このとき既に、勝敗は決していた。アルウス軍は散りじりになり逃げ惑うだけで、リスタール軍、黒騎士団の敵ではなかった。
このとき、アルウスは後方におり、あわてて軍をまとめ退却を始めた。が、その後方を襲ったのがリスタール城の太守スラットだった。
アルウスはそれからも逃げ延びるが、その先にはいつの間にか転移したエラナがおり、彼女の魔力弾の砲撃を浴びることになった。
「雑魚をいたぶる趣味はないけど、しばらく黙っていて欲しいの。悪く思わないでね」
戦いは、開始からたったの三時間で終了していた。この戦いで無事に、帝都ラクーンへ逃げ帰ったのは、アルウスとたった2000の兵士だけだった。
この戦いで、アルウスはほぼ30万の兵士をまるまる失い、アルウス自信も、エラナの魔力弾で負傷していた。

その日の夜、リスタール城は戦勝の喜びの中にあった。捕虜となった兵の多くは、アルウスの政治に不満を持つものが多く、それらはリスタール兵の仲間となった。
「ベネラル、上手く行ったわね」
宴席場を抜け出し、ベネラルとエラナはベランダで風を浴びていた。エラナは、白ワインが入ったグラス越に月を眺めていた。
「エラナ、随分と自分勝手に動いたな」
「たいしたことしてないわよ。ねぇ、フェーナ」
騒ぐことになれていないフェーナは、二人が出ていくのを見て後を追ってきていた。
「確かに遊んでいた程度と言われればそうですね」
「何だ、二人は知り合いなのか」
「そう言えば言ってませんでしたね」
「一緒に戦った仲間よ」
「なるほど」
「そういえば、ラクレーナから伝言を頼まれてたわ」
「帝国(こっち)に来ていたのか」
「帝都の酒場で合ったわ、スティールが協力してもいいって言ってたわ。必要なら私が正式な使者として行ってくるけど」
「そうか、だがまだその時では無い。最終的にはそうなるかもしれんが、もうしばらく待った方がいいだろう」
「それもそうね、これから帝国全土は雪に覆われますから、そうなれば戦争どころではありませんからね」
帝国領は冬になると完全に雪に覆われ、街と街との行き来が難しくなる。この時期だけは戦争などが行なわれることも無い。そもそも軍を遠征させることすら不可能と言っても良い。
「それも理由の一つだが、政治的な立場の問題もある」
「それは解決していると思ってたけど」
「フォーラルか」
「ええ、彼が帝位に付くことに問題は無いはずよ。世襲で行くなら、別に貴方でも問題ないはずよ」
「今の時点では早すぎると思うが」
「そんな事は無いわ、冬の間に兵を蓄えるならそうするべきよ。雪の無い今なら情報は国中に伝わるけど、雪が降り始めては遅すぎるわ。こちらが準備する必要なものは皇帝と統一後の簡単な公約でいいのよ」
「エラナ、何を企んでいる。お前がそこまで言うにはわけがあるのだろう」
「無いと言えば嘘になるわ。だけどアルウスの政治能力はかなりのものよ。いつまでも後手に回ってあげる必要は無いわ。こちらが先手を取っても問題ないはずよ」
「確かに、そうでも無ければ奴はあそこまで昇ることはできんだろうからな」
「そういうこと、だけど決めるのは貴方で私じゃないわ。あとそれから私は明日からしばらく留守にするから何かあったらカリテに言うといいわ。彼に私との連絡方法を教えておくから」
「何処へ行く」
「魔神獣を調べてくれと頼んだのは貴方でしょ」
「そうだったな」
「エラナ、もう少し休まれてはどうですか」
エラナを見ていたフェーナがそう言った。
「そのうちね」
「エラナ、貴方一人があせったところでどうにもならないこともあるのですよ」
普段怒ることの無いフェーナが強く言う。
「それぐらいわかってるわよ。だけど何もせずに後悔はしたくないの」
エラナは転移魔法でそのまま姿を消した。
「・・・」
「エラナのことだ心配はいらんだろう」
「それならばいいのですが、彼女が大きく力を失っていることは事実です」
「それほど悪いのか」
「今の彼女の力は本来の二割程度しかありませんよ。それなのに無理な術を使い続けていては彼女の命すらも危険です」
「なっ」
「ですが止めることも出来ないでしょう」
宴会場ではいまだ宴会が続いていた。ベネラル、フェーナの心配をよそにエラナは動き続けている。帝国歴五一七年をじきに迎えようとする冬はこれからという年の終わり、ベネラルは決断を迫られていた。

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