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第二部  第三章 孤独


魔皇クライシストを封じてから数日したある日、城内から皇帝の使者として、宮廷司祭アルウスが学院を訪れていた。
「導師諸君、君たちの帝国に対する忠誠は確かなるものであると確信した、これからも帝国の臣として頑張って欲しい」
導師達が、アルウスに示した忠誠が金によるものであることは、間違いの無い事実、金さえあれば手に入らないものはない、地位、名誉、忠誠、すべて金で買えるのである、アルウスが民の税を上げている訳ではない、上げているのは、彼に金を貢ぐ者達がしていることである、導師達は、ささいな魔法を使い、莫大な金を要求し金を作り出す、それも殆ど押売状態である。
「ありがとう御座います」
導師がぺこぺことアルウスに頭を下げている。
彼ら導師達には、過去の学院の導師達の偉大なる威厳など無く、ただの金におぼれた政治家達の仲間入りを果たしている。
アルウスが、満足そうに学院を後にしようとする学院の出口で一人の女魔導師が立ちふさがった。立ちふさがったのはエラナだった。
「闇司祭アルウス、民に変わって私が貴様を倒す」
エラナは、アルウスに杖を突き付ける。
アルウスについていた、導師達はあわてた様子で、彼を守るように立ちふさがる。彼らもまた、アルウスと手を結び私腹を蓄えている者である。
「エラナ、失礼だぞ、そこをどけ」
叫ぶ導師の声は震えていた。
「断ります、私の邪魔をする者はすべて排除します。命令ですそこをどきなさい」
彼女の言葉に導師達が、おびえ震えていた。エラナがドラゴンの軍勢を一人で壊滅させた話は誰しも知っており、私腹を肥やしてきた導師達とは違う。逆に彼らは初級魔術を辛うじて使える程度である。そんな彼らの体は、脂をふくんだぷよぷよとした体つきをしている。
エラナが一歩進み出ると、彼らは三歩後退した、彼女の実力は分かっている、ここにいる導師全てでも勝てないことは。
「エ・エラナ、待て、話せば分かる」
導師としての威厳など、無きに等しい。
「学院の掟を破った導師の裁きは何でしたか」
魔術を、己が目的で使用してはならない、学院の導師は帝国を見定めなければならない。現在の導師達には全く縁の無い言葉である。
「お前こそ、掟を破っておるではないか」
学院の掟に魔術を持っての殺しは禁止とある、だが無用な殺生においてのこと、大義名分と正義は彼女にある。同時に彼女は一本の短剣を見せる。それはかってベネラルから受け取った帝国黒騎士団特別査察官としての証であった。
本来、学院の導師は、悪徳な政治家達を懲らしめなければならない。
「えい、どけい、がたがた震えおって、それでもこれまで帝国を支えてきた導師か」
アルウスが導師をはねのけ進み出てくる。
「エラナ、議会で叶わぬとみてついに実力行使か」
「後悔することになるわよ、私の実力はわかっているでしょう」
自らの圧倒的な力を示すためにあえて単身古代竜退治をしたのだ。それがアルウスの手の者が行ったもとということはわかっている。
「笑止、儂もあまく見られたものだな」
アルウスがここまで、のし上がったのは金の力ではない、自らの力でのし上がったのである、方法はともかく、導師達とは違う。

エラナが杖をかかげ、光弾を打ち放つ、彼女自身の最大の一撃ではないが、導師達が一生かかっても放ことの出来ない威力はある。
が、光弾はアルウスに到達する前に彼が張る、壁の前に防がれる。
「その程度か、ならば儂の一撃を受けてみよ」
彼の打ち放つ光弾を、エラナは、壁を創り出すこと無く正面から受け止める。
「はっ」
軽々と杖でそれを弾き飛ばす、彼の一撃は先程の彼女の一撃をうわまる力はあった。
「その程度でしたら、防御する必要はないわ、そのまま打ち返しても良かったのよ」
二人が様子見で戦っているが、導師達から見れば未知なる戦いであるともいえる、彼ら導師の力はそこまで衰えていた。
二人は、何度も光弾を打ち放つが、決着をつけるほどの一撃ではない。
「その程度では、儂は倒せんぞ、本気で来たらどうだ」
アルウスは挑発するように彼女に言う。
一瞬、彼女の杖を握る手に力が入る。
「できんだろうな、儂らが本気で戦うなら、この学院、ましてや帝都ラクーンを破壊することにもなるだろうからな」
かって、伝えられし大魔導師同士の戦いは、壮絶なる戦いであり、森、山の一つなど簡単に消し去り、戦いの後、広野と化したとも言われる、現に山を吹き飛ばす魔術ならば、過去に使いこなしたものは数多くいたとも言われる、街中でそのような術を使えばどうなるかは、言わずと知れている。
アルウスが、これほだけの実力を有しているとは想像していなかった。
「街から出ろ、街の外で相手になる」
「断る、儂は忙しいんだ、お前などと遊んでいるほど暇ではない、遊びたいのなら、街の外をうろついている魔物とでも遊ぶがいい、考えるがいい、儂が何故、部下を連れてこないのかを」
第一に彼は、自分の身は自らで守れる為、そして彼が他人を信用しない為である、彼にとって自分こそが最強で偉大なのである。
優秀な部下には金がかかるのも、一つの理由でもあるが・・・。
「ならば、死をつかさどる雲よ!」
死の雲がアルウスを包み込む。
「その術の弱点を知らんとでも思ったか、風よ舞い踊れ!」
風で雲が舞い散らされ、その効果を失う。
「我が力よ、我が意志に従い集え!」
杖を投げ捨てた彼女の手に、輝く剣があった。
「・・・魔力剣!?」
彼女は、その剣で直接、アルウスに切りつける。彼女の魔力剣は、魔法力を物質化する、極めて高等な魔術である。
アルウスは逆に盾を創り出し、それを受け止める。
「なっ」
「ふ、魔力を物質化する力は貴様だけの能力ではないわ」
が、この術には欠点が多い、地味な術ではあるが、断続的に魔法力を放出する為に、体力の消耗が大きい。
だが、彼女の魔法力はけた外れに高かった、アルウスに比べると、息一つ乱してはいなかった。
「ふ、これ以上は無駄ですね、私もこれ以上の消耗はしたくはありません、それに、彼との約束がありますからね、今回は貴方の実力を知れただけでよしとしましょう」
「怖じ気づいたのか」
からかうように言うが、その表情は、彼女から目をそらしはしなかった。彼女が自分より強いことは分かっていた。
「今ここで、貴方を倒すことは私にとっては容易であることは、忘れないで下さいね、いずれ私の同志が貴方を倒しに来るわ、それまで貴方の命は預けておくわ」
「ふ、誰かは予想はつくがあえて聞かんが、楽しみに待っておるよ」
アルウスは、それだけ言うと馬車に乗り学院を立ち去ってゆく。

前日の夜、エラナは国境を守るベネラルの元を訪れていた。
「わざわざ尋ねてくるとは帝都でなんかあったか」
部屋に同席しているのはフォーラルを含めた3人だった。
「特におきたわけではないわ、ただこのまま放置すればアルウスはさらに身辺を固めるわよ」
単刀直入にそう言う。
「議会のほうはどうなのだ」
「少数の意見は多数に打ち消されるだけです。犯罪の証拠があれば法にてらした捌きを与えることはできるでしょうが、アルウスがそれを犯しているわけではありませんからね。彼のまわりのものはともかくね」
「アルウスはけして指示をしてやらせはしないようですからね」
フォーラルがそう答える。
「ただこのままでは帝国は崩壊への道を歩むしかありませんよ。ラトール陛下には私に期待して登用して頂いた恩義がありますし陛下から命じられた使命があります」
そう言い、エラナは2人にラトール皇帝のサインの入った書面を見せた。
「これは父上の遺言状ではないですか」
フォーラルがそう言う。
「貴方を次期皇帝にとのことです。後見人としては私とベネラルをもってあたるようにとのことです」
「陛下のご意思はわかったが、どうする」
「事はアルウス一人を倒せばいいというわけではありません。そろそろ大規模な外科手術が必要な時期でしょう」
「しかし、アルウスは納得しまい」
「でしょうね。ですから、こちらから行動を起こすが吉だと見ます」
「具体的にどうされるのですか」
「明日、アルウスが学院の視察に来ますので、そこで私が対峙してみようと思ってます」
「宣戦布告ですか」
「そこそこの実力があるそうですから、実力を知っておく必要はあるでしょう。もっとも私が脅威を感じることはないとは思いますけどね」
「任せよう、で、俺たちは具体的にどうしたらいい」
「リスタール城とリクイド城の二つをこちらの支配下に置けば帝都は孤立することになるわ。リクイド城はブラネス卿が守られるから問題ないですが、リスタール城の太守スラットを説得する必要はありますね」
「スラット太守はアルウスのやり方には不満を持っている。こちらが正当な理由を掲げれば味方してくれるだろう」
「国境もしばらくは静かですから、アルト将軍に任せればよいでしょう」
「信用に足るとの考えですか」
フォーラルに尋ねる。
「妹のレネティアはたしか、ブラネス卿の元にいましたよね」
「父上の元にいるな」
「なら問題ないですね。レネティアはアルト将軍を射止めたみたいですからね。アルウス打倒後に二人の結婚を認めると言えば問題ありませんし、あの方には宰相の位をもって迎えてもよいでしょう」
「妹を政略結婚させるつもりですか」
「二人が愛し合っているのですからそうでもないでしょう。もっとも政略の道具といわれても否定はできませんけれどね」
「決起の日が決まったらまた連絡します」
そう言いエラナはその場から姿を消した。

エラナは、その日のうちに大導師ラスティークに破門を命じられ、学院を後にした、しかし、彼女に対しての通常の厳罰は行われなかった、それは学院では彼女を裁けるものがいない為である。
「エラナ、私はこうするしかない、すまんが、学院からでっていけとしか言えん」
「いいえ、悪いのは私の方です、老師にはご迷惑をおかけいたしました」
エラナの良き理解者でもあるが、彼にはこうすることしかできない。
彼も、彼女に協力したかったが、彼女の足手まといを避ける為と、学院の歴史を守る為、彼女を見守ることを選んだ。
「いや、何も出来ぬ、私を恨んでくれ、私には時代を変える力はない、しかし、この学院だけは守ってみせる、これだけは約束しよう」
「はい、確かに、私も約束します、この帝国を変えてみせます、どんなに時間がかかりましても」
「ああ、いずれお前がここへ戻ることの出来る日を楽しみにしておくよ、破門になることでお前の次期最高導師であることは消えるが、お前の為にこの私の後任の席を開けておこう」
「ありがとう御座います、それでは老師、お世話になりました」
彼女は、ラスティークに頭を下げると老師の部屋を後にした。
学院を後にした彼女は、顔を知られているので姿を変えると街の酒場へふらりと来ていた。
すでに酒場では、アルウスを狙った者がいるとの噂が流れていたが、その詳細は全く違ったものだった。
「何かあったのですか」
何気なく彼女は酒場の親父に尋ねた。
「何がって知らないのか、宮廷司祭のアルウス様を何人かの剣士が切りつけたって話を」
「いや、俺は、ただの野盗だと聞いたぞ」
「いや、俺は、公国の暗殺者だと聞いたぞ」
それぞれが、全く違ったことを言った。あるものは、町人が、またあるものは勇者などと、共通点は見られなかった。
ただいえるのは、アルウスが自らの実力を示す為に、彼を殺そうとしたものを返り討ちにしたと、知らしめたかったことと思えた。
話によれば、宮廷司祭アルウスを狙ったものは、殺され、さらし首にされたとされている。現に幾つかの晒し首が王城の門に並べられていた。
「そうなのですか、私、ここへは初めて来たので、知らなかったんです」
もちろん、エラナの言葉は嘘八百である。
「そうかい、だが、気を付けなよ、ここじゃ、正直者は馬鹿を見るなんって言われるぐらいだ、あまりお人好しにはしてない方がいいよ、最も、いい奴はいっぱい居るがな」
親切心で親父が言う。
「そうだぜ、しばらくこの街にいるんだったら、ここへ泊まるより家へこないか」
エラナを口説くように遊び人風の20代前後の男がそう声をかけてくる。 「おいおい、こいつは危険だぜ、家の方が安全だぜ、あんなのは相手にせん方がいい」
店の親父はそう言いきる。 「親父、そらないぜ」
「ふ、泊まるなら家にしとくといいよ、家は良心的な店だからな、飯はうまいし、部屋はきれいで、宿代は安い、三拍子そろってるよ」
この店の親父は裕福そうには見えなかった、重税さえなければ、かなり盛り上がり、繁盛しそうな店である。
税として、売り上げの七〇%以上を持っていかれるのである、当たり前と言えば当たり前である。
一般の家々では、餓死者が多い。
しかも、税の八〇%は政治家達の私腹を肥やす為であるが、今の街の住人にそんな気力はない。その日を生き抜くことすらやっとのだから。
「すみませんが、私は先を急ぎますので」
少し多めのお金を親父に手渡す。
「これじゃ、多すぎるよ」
「もし多いと思われるのでしたら、ここにいられる方にお酒でも差し上げて下さい、情報料とでも思って下さい」
さっさと店を後にし、そのまま、街を後にした。途中、さらされている首を見たが、それは、恐らく罪人を処刑したものと見られた、ただ、全く別の罪を着せられた、エラナは厳しい表情でそこを後にした。

街を出れば、そこは全くの別世界、魔獣の住まう弱肉強食の世界である、街の住人が逃げ出すことの出来ない理由でもある、街の中までは魔獣が姿を現すことはない、小さな町や村が、魔獣に襲われ壊滅した話は、珍しくなく、日常的なことであり、この世界の住人の平均的な寿命は短く、いつも死と隣あわせな生活となる、故に、地方へ行くほど、成人は早く、通常は成人と同時に結婚し、子供をつくる、結婚する年齢が早い地域ほど平均寿命が短いとまで言われるほどである、平均的な結婚年齢が一四から一六歳であるが、逆に力を持ち、身を守れるものは比較的遅い傾向がある。
町を出たエラナは、今まさに、魔物の住む真っただ中にいる。
先程も、食事の為に襲ってきたオーガーを倒したばかりであったが、また、エラナに襲いかかるものがあった。
襲ってきた魔物は、知らない魔物だった。
「殺気!?」
普通の魔物は、殺気を感じはしない、通常は彼らもまた、生きていく為に、他の動物を襲う程度で、無用な殺生はけしてしない。
その点は、人間と比べるならまともな点でもある。
しかし、その魔物は殺意を現しエラナに襲いかかってきた。しかも、その魔獣は魔法を使用してきた。
エラナの力から見れば、小さなものであるが、魔法を使うほどの知性を持った魔物は、この辺りにはいないことは確認されていた。
「この世界の住人ではないわね」
それは異界の魔物だった。その魔物は一匹ではなく、集団で襲ってきた、しかも、辺りには肉食系の魔獣が無残にも殺されている後があった、彼らは、食べる為ではなく、殺す為だけに、襲っていた。
殺すことが、楽しみかのようにも見える。
エラナの実力からすれべそれほどの相手ではないが、彼らは仲間の死を見ても動じること無く襲ってきた、間違いなく異界の戦闘兵と言ってもよかった。
「何者なの、このような魔物は初めて見るわ、この世界の魔獣でないことはわかるけど、何者かしら、だけど、これだけが全部と考え無い方がいいわね、他にもいるわね、こんな奴らが街を襲いでもしたら、大変なことになるわね、姿か達はいろいろ、中には空を飛ぶものもいたわ、何かが起ころうとしているのかしら、調べる必要があるわね、幸い、まだこの森の中だけのことみたいだから、何か分かるかも知れないわね」
背後に無数の影が現れていた。
「誰」
姿を現したのは先程と同じ魔獣達だった。
「お前か、私の部下達を殺したのは」
「貴方が大将かしら」
「そうだ、だがこの私の軍と出会ったのが運のつきだ、人間にしては強力な力を持っているようだが、我ら魔神獣の敵ではない」
「そう、魔神獣っていうのね、ありがとう、調べる手間が省けたわ」
エラナは、何気なく言い捨てる。
「だが、お前はここで死ぬことになる、まだ我らの存在を知られる訳にはいかないんでな」
「それは意味の無いことだわ、貴方が私を倒せるようには見えないわ」
「ほう、この一〇〇人の魔神獣を相手に勝てるとでも思っているのか」
「さっきの一〇匹の力を一と考えるなら、貴方の力は一〇はあるでしょうね、でも私の実力は、一〇〇〇以上よ、悪いことは言わないわ、おとなしく元の世界に戻りなさい、戻るのでしたら、これ以上何もしないわ」
「残念だが、はいそうですかとはいかんのでな、我々も仕事なのだ、殺すべき相手を殺さずに戻れんのでな、特別に名前を聞いてやろう、墓標ぐらい作ってやらんことも無いぞ」
「ふ、この大魔導師とも言われる私に勝てるとでも思っているの、ラクーンでは私以上の魔導師はいなかったわ」
「なるほど、貴様がエラナか、貴様の命はこの魔神獣バリアスクが頂く」
バリアスクと名乗った魔神獣は殺気をあらわにする。
「なるほど、アルウスも考えたわね、貴方達を使うならば、お金は全くかからないわね」
彼ら魔神獣が求めるものは、人の魂、アルウスに取って人の魂などいくらでも払える。
「私も甘く見られたものね、このような雑魚を差し向けるなんて、最も、私に挑んでくるものは誰であろうと容赦はしないわよ」
学院の掟に、自らを殺しに来るものに対しての反撃を行うという禁忌は存在しない、学院を破門になったとはいえ、その教えを破りはしない。
さらに出現した一〇〇匹の魔神獣が一斉に襲いかかる。
「雑魚は、おとなしく異界へと戻れ」
障壁は、一〇〇匹の魔神獣を瞬時に消し去る。
バリアスクが、魔力弾を打ち放つ。
「ふ、アルウスの足元にも及ばないわね」
魔力弾を打ち返されバリアスクは、いともあっさりと消滅する、もしエラナが相手でないのならば、使命を果たすことも出来たであろうが、エラナの実力は一線を越えたもの、相手が悪すぎた。
「アルウス、貴方がそのような方法で来るのでしたら、私は容赦はしないわ、聞こえているのでしょ」
アルウスはその様子を王城から見ていた、しかし彼にとって、これはエラナへの宣戦布告であり、倒せるとは最初から思っていなかった。
「そのとおりだ、だが貴様は儂の計画には邪魔だ、必ず消し去ってやる、楽しみにしているがいい」
「ええ、待ってるわ、でも次ぎも魔神獣を差し向けるなら、もう数十倍は強い相手ではなくては私の相手は勤まらないわよ」
「心配するな、そいつらは魔神獣でも下級の奴らだ、上級の奴らを相手にしてはそうはいかん、まぁ、楽しみにしているんだな、あははは・・・」
高笑いするアルウスの声はしだいに消えていく。
「しかし、アルウスの計画が気になるわ、何をする気かしら」
エラナはリクイドへと向かって進み出した、そこにベネラルがいないことは分かっていたが、そこで待っていれば良いと感じていた、そして帝国全土、いやこの半島の全てを巻き込む何かが起こることを感じ取っていた。

エラナは魔神獣に襲われたその日は、近くの村で宿をとった。村は彼女が良く訪れていた為、村人とも顔なじみである。
酒場には、良く知る男がいた。
「珍しいわね、こんな所で飲んでるなんて」
男の側に刀が立てかけてある。
「たまには妻と娘以外の顔見ながら飲みたくなることもあるわ」
エラナの師でもある剣王フォルクである。
「とりあえず、私に伝えたいことがあるんでしょ」
全てを知っているかのような表情で語る。
「まぁな、とりあえず座りな」
エラナはいわれるままに座った。
エラナが座るとグラスを差し出す。グラスには赤いワインが注がれている。
「私が赤が嫌いなのは知ってるでしょ」
眉を歪めてそう言う。
「こいつが一番旨いんだ、そう否な顔をするな」
文句をいいながらもグラスを口に運ぶ。飲めないわけではないし、味が苦手なわけでも無い。
「で、何なの」
「昨晩、奇妙な魔物とあった。たいした力は持ってはいなかったが初めて合う魔物だった」
「それなら私もさっき合ったわ、だけど私達にとってはたいした相手では無いけど、普通の人間から見れば普通の魔物なんかよりたちが悪いわ」
二人に対抗できる魔物は存在しないと言ってもよいが、それは二人だけの話で普通の人間ではゴブリンやコボルトですら脅威となる。
「魔法を使う魔物はいくつもいるが、直接的な攻撃魔法を使う奴はいないからな」
食する為に狩りをする彼らは、獲物を傷付けるようなことはしない。殆どが精神的な魔法を使ってくるがそれは魔物でなく魔獣と呼ばれる。
「表面的な主犯格はアルウスよ、だけどその裏にはまだ何かがある気がするわ。アルウスと戦ってみたけど、奴にそれだけの力はないわ」
「お前ならば可能か」
「それは私の専門じゃないわ、どちらかといえばセレナの方が詳しいはずよ」
「セレナ、お前の妹だったな」
セレナは、最近では使用するものが減った呪符を得意とする。呪符が近来使用されないのは、事前に準備するその手間と力のコントロールが難しい点があった。その一方で術の発動が早いことからごく少数のものが使用する。
「そうよ、だけどセレナが本当に得意のは実際はその逆だからどちらともいえないけどね」
エラナはそう言いながら、店員に白ワインを注文した。
「血は嫌いか」
エラナはワインの赤色を血の色とだぶらせる。
「戦い以外では見たくは無いわ」
初めて血を見たのは五歳のとき、村を襲った魔物を倒したときだった。その時に殆どの村人が死に絶えた。
この時、珍しい女性が店に入ってきた。長い髪から細長い耳が出ていた。妖精族、人間は彼女達の種族をそう呼ぶ。実際には妖精には、森・山・空の三つにわけられるが人間にとっては異種族以外何ものでもない。
彼女はエラナの知った顔だった。
「フェーナ」
「久しぶりね、エラナ」
そう言い、二人が座っている席に座る。フォルクは彼女の美しさに口をならしていた。
「森を離れない貴方が何かあったの」
「時の流れに従っているだけですよ」
「何を見たの?」
「終わりを見ました。そう、全ての終わりを」
「どうやら、まんざら私が感じ取ったのも間違いじゃないみたいね」
二人はフォルクを無視するかのように二人だけで話を進めていた。
「少し話が見えんのだが」
二人の会話を理解できないフォルクが尋ねた。
「そういえば彼女と他の人間を合わせるのは初めてだったわ。紹介するわ、森の妖精族のフェーナよ、彼女は夢見の力で未来を見ることが出来るの、それで彼女が見た予言についての事よ」
「なるほどな、俺はフォルクだ。で何処までわかるんだその未来とは」
「私の力に際限はありません。ですが、私が見る未来が全てというわけではありません。十分に変えることはできます」
「フェーナ、貴方が見たそれはやはり異界の魔物によるものなの」
エラナはフォルクの質問に答えるフェーナの話のこしをおり元の話に戻す。妖精族は長き時を生きることもあって、時間を費やすことにたいして殆ど気にしない為に、長くなることがある。
「確かに異界の魔物もそうですが、実際に原因となるのは人間です。異界の魔物が与えるものはささいなもので、滅びの原因にはなりえません。どちらかといえばきっかけといったほうがいいと思います」
「フォルク、貴方はどうします」
エラナは運ばれてきた白ワインを口に運ぶ。
「俺か、俺は変わらんさ。俺のやりたいようにするだけだ。どうしてもお前達の手におえんのならば手伝ってもよいが、その気は今のところはないな。実際、今だってお前とだから合っているようなものだ」
フォルクは人の醜さを知っている。知っていたからこそ森にひっそりと家族だけで暮らしている。
「いずれにしても貴方も動かざるを得ませんよ」
フェーナが静かにそう告げる。
「それはその時だ、わかっているならお前達だけでもどうにかできよう。それにベネラルもいるだろう。魔を相手にするならスティールもおる、十分だろう」
「まぁいいわ、しばらくは私達だけでも十分だわ。フェーナ、私は少し調べたいことがあるからベネラルにそう伝えといてくれるかしら」
「構いませんよ、流れに従うならばそうなりますから」
「有難う、と、もう来たみたいね。ここは私が引き受けるわ」
エラナだけでなくその場にいる三人は村の上空にある魔の気配を感じ取っていた。
「頼みましたよ」
そう言うとフェーナはその場から姿を消した。瞬間移動の魔法である、本来妖精族は精霊魔法を好んで使用するが彼女はそれ以外にもエラナのような黒魔術も使う。
「フォルク、貴方はどうします」
「観戦させてもらうよ」
「そう、じゃ手出しはしないでね」

エラナは酒場を出ると、村の中心に突き杖を立てた。杖を突き立てたと同時に村全体を光の壁が被いつくした。
そして、そのまま彼女は魔神獣がいる上空に舞い上がった。
「余分な魔力を裂いて俺達を相手にするつもりか」
リーダーらしき魔神獣がそう言い放つ。
「なるほどね、さっきのよりは強いみたいだけどハンデにしといてあげるわ」
エラナは自信たっぷりとそう言い返す。
「我らを侮辱する気か」
「違うわね、ただ村を消したくないだけよ」
そう言うと詠唱も無しに、魔力球を創り出す。人間の力では、詠唱無しに発動することはほぼ不可能、出来たとしても本来の威力を引出すことはできない。人間の体内に存在する魔力が小さすぎる為だ。だがエラナは、魔力の塊といってもいいほどの力を持っている。
「ブレイク!」
彼女が指をならすと同時に、魔力球はさらにいくつもの魔力球にわかれ数十匹の魔神獣を消滅させる。
「ほう、たいしたものだ」
リーダーらしき魔神獣はそう呟いた。同時にその魔神獣は彼女の魔力球を軽々と弾き飛ばしていた。瞬時に消された魔神獣とは格が違う。
「なるほどね、バリアスクとかいうのは今ので十分だしたけど」
「この俺をあんな下級レベルの奴と一緒だとでも思っていたのか」
「300程度ね」
エラナはバリアスクの実力を評価したようにそう呟いた。そんな彼女はアルウスを七〇〇と評価していた。
「風よ我が声に従え!」
それはエラナが放ったものではなかった。風に舞うような少女が放ったものだった。少女が放った風の刃はリーダーの魔神獣にかわされはするが別の魔神獣を切裂いた。
少女は次々と風の刃を創り出しては魔神獣を切裂いていく。
「お前達は私が滅ぼす、私の一族の仇はとらせてもらいます」
少女の瞳から怒りが感じ取れる。
「ほう、生き残れたのか」
魔神獣は感嘆したように少女を見た。その間にエラナが割って入る。
「どいてなさい、風一族のようですけど今の貴方ではそいつには勝てないわ。それにそいつは私の相手よ」
「・・・」
少女は何も言わずにエラナを見た。
エラナが発する魔力が格段に高まっていく。
「少し、本気でいくわよ」
瞬時に間合いをつめると彼女は素手で魔神獣を殴り飛ばした。同時に左手に貯めた魔力球を魔神獣の腹に打ち込む。
「がぁっ」
「魔力剣(マジック・ブレード)」
彼女が産み出した光の剣が音も無く魔神獣を両断する。
たった数秒の出来事であった。
「つ・強い・・・」
リーダーを倒され魔神獣達に動揺が走っていた。
「魔散弾(マジック・ブリット)」
エラナの拳から散弾銃のように魔力弾が打ち出される。さらに少女の風の刃が次々と魔神獣を打ち減らしていく。
数分後には、エラナとその少女だけとなっていた。

「貴方、名前は」
エラナは少女に尋ねた。
「・・・私はフィーラ、フィーラ・ミレニア」
既に彼女の瞳にあった怒りが消えていた。
「ミレニア、すると貴方は王家なのね」
「はい、一〇〇代目となるはずでした」
フィーラは、村であったことをエラナに話した。
数日前に、静かな村に魔神獣が襲いかかって来た。
風の守護を持つ村人は、それに応戦したが西方軍王の腹心と名乗ったたった一匹の魔神獣が現れてからは、一方的な殺戮状態となり、村人も一人また一人と倒れ彼女の両親もその前に破れ去ったとのことだった。
「・・・これからどうするつもり」
「一族の仇をとりたいだけです。ですが、さきほど貴方の戦いを見て私ではそれもかなえられぬと思うと・・・」
この時吹いた風がフィーラの前髪を吹き上げた。その額を見てエラナは表情には出さないものの、全てを理解した。
「いいでしょう、貴方には私の魔術を教えてあげるわ。貴方なら十分立派な魔導師となれるわ」
そういい、彼女に自分が付けているバンダナを外すと差し出した。
「これは・・・」
「それで額を隠しなさい。これから貴方が生きていく為には必要な事です。理由はいずれわかります」
「わかりました」
「それから私は、エラナ・フレアよ」
「お願いします」
フィーラはエラナの最初の生徒となることに承諾した。

村に降りてきたエラナとフィーラをフォルクが迎えた。
「たいしたものだ、案外俺ではお前に勝てんかもしれんな」
「そんなことは無いわよ。いくら私でも貴方のスピードにはついて来れないわよ」
フォルクの動きは超絶したスピードにある。エラナが術を一つ発動する間に三度は切りつける事が出来るし、一〇〇メートルぐらいならば一瞬で間合いをつめることが出来る。
その人間離れした反射速度が彼の強さの秘密である。
もし二人が戦うならば、先に攻撃が命中した方が勝つともいえる。
「で、その娘は」
「ミレニア一族は知ってるでしょ」
「ああ、一五年ほど前に立ち寄った覚えがある」
フォルクは元々プロミスト半島を旅する冒険者であった。彼が立ち寄らなかった場所は無いといってもよい。
「ミレニア一族は魔神獣に滅ぼされたわ、彼女はその唯一の生き残りらしいわ」
「なるほど、一週間前に感じた力はそれか」
「知ってたの」
「ああ、出向こうと思ったがあまりにも遠かったのでな」
山の中にあるフォルクの家から確かにミレニア一族の村までは、一〇〇〇勸幣紊呂△襦K眛鎧佞任覆と爐砲修譴世韻竜離を移動することはできない。
「と、それ以外にも北の方でそれ以上の力を魔の力を感知したのだが、数分ほどで消えたが」
「それはクライシストの力よ」
エラナはさらりとその名を口にした。
「それは魔皇クライシストのことでしょうか」
尋ねたのはフィーラであった。
「そうよ、最も一〇に分断されたその一部ですけどね」
「魔皇だと、そんな者が出現すればいかに一部といえど魔神獣などの脅威とは比べ物にならんぞ」
クライシストは神話に登場する魔皇だが、数ある宗教で必ず登場し闇の王として知られている。
「その心配はいらないわ、そいつはもう滅びたというより封印しなおしたわ」
「どういうことだ」
「私が封じたわ、だけどあの時別の場所でそんな事が起ってるなんて考えもしなかったわ。それにそんな余裕なんて無かったわ」
魔皇は神話に登場する神である。人間を創造した神に対して、人間がどうにかできる相手ではない。
「どうやったのだ、俺でもあんなのを相手にしては勝つ自信はないぞ」
人間の実力を越えたとしても、けして越えられない壁は存在する。
「私の持てる全魔力をたたき込んだだけよ、まぁ、それに協力者もいたからなんとかなったけどいなかったらやられてたでしょうね」
クライシストを吸収したことについては隠し、倒したと説明した。 「先程のフェーナという妖精族の娘か」
「違うわよ、彼女と合ったのは1年ぶりよ。協力してくれたのは法皇セレネイドよ」
「魔皇を分断し封印したという法皇、その法皇が封印していたのですね」
これもフィーラだった。法皇も神話に登場する、それ以外に魔皇と対峙した神皇もいるが、法皇はその両者を凌駕する。法皇は、神皇・魔皇を同時に相手にできるだけの力を持っていた。
「確かに封印したのは彼女だったけど、彼女の肉体は既に滅びてるわよ。残ってるのは彼女の思念体だけよ」
神話で語られているのは法皇が両者を滅ぼしたとの事までで、彼女がどうなったのかまでは知られてはいない。
「では、どうやって倒されたのです」
「思念体といっても体さえあれば、力は震えるわ。一時的に私と融合すればいいだけのこと」
「するとどちらかといえば、滅ぼしたのは法皇ということか」
「意志事態は私だから、どちかといえば二人でが正しいわね。それに融合といっても誰でもいいわけじゃないわ。ある程度、彼女の力を受け継いだ者でないといけないわ」
融合は、融合する二人にある程度のつながりが必要となる。そうで無い場合、どちらかがどちらかを吸収することになる。
「するとお前はその血を引いているのか」
「末裔もいいところだから、殆ど微々たる量らしいですけれどね」
「なるほど、まぁとりあえず問題にならんのならそれでいい。俺は帰って酒でも飲んでることにするよ」
「じゃぁ、また近いうちにね」
「そうならようにしといてくれ」
そう言いながら、大量の酒瓶を背負って村を出ていく。
「さて、フィーラ今日はここで止まってくわよ」
日は既に暮れかかっていた。
「わかりました」

宿に戻ってから、エラナはフィーラに魔術の基礎をすこし教えた。
「そもそも魔力は誰にでもあるものよ。それを自在に使えるのが魔術師と呼ばれる者よ。だけど人間では持っている力が弱いから術を詠唱することによって己の体内の魔力を集中させて力ある言葉を紡いで形にするの。貴方が使う風の力は、風の精霊に呼びかけてそれを操るものだからかなりの違いがあるわ。魔術師が使う魔法は、自信の力で行なうの」
「内の力か、外の力かということですか」
「そうとも言えるわね」
「それは、風の力をより大きくする場合に、自分の力を風に与えると同じような事なのですか」
「貴方はそれができるのですか」
風は精霊の力であるが、フィーラが使う風は精霊使いの風とは違う。精霊使いは精霊の協力を得るか、それ以上の力を持っていなくてはならないが、彼女の場合はそれを強制させることも、風の無い場所に風を創り出すこともできる。
「はい、普通の風では優しすぎるのもありますが、風は強いときも弱いときもありますから」
「なるほどね、じゃぁ基礎的なことはやらなくてもよさそうね。だけど、魔力の使い方が完全に違うことだけは覚えておいてね」
そう言って、エラナは自分の荷物の中から魔道書を取り出した。
「この文字は読めるかしら」
現在プロミスト半島で使用されている文字は、地方によってかなり違いがあるものの、巨大な三国があるので共通で使用される文字は決まっているが、魔道書などは古いものが多く現代では使用されなくなった文字が多い。翻訳されているものもあるが、魔術が悪用されることを防ぐ為に殆どはそのまま使用されている。
「はい、村で使ってた文字ですから」
「そうすると、これは読めるとしても普通の書物は読めないわね」
「それ以外の文字はわかりません、ここの一階に貼ってあった張り紙も何て書いてあるのかはわかりませんでした。言葉はたまに旅人が来てたのでわかりますけど」
「そっちの方は準備しとくわ。とりあえずそれを読んでみなさい。基礎的な事と簡単な魔法が書いてあるから」
「わかりました」
エラナが床についたのは、夜の10時ぐらいだったがその時まだフィーラは魔道書を読んでいた。
「明日からしばらく歩きますから、休んでおきなさい」
「わかりました、もう少し読んでから休みます」
そう言って、再び本に目を通していた。

翌朝、エラナが目を覚ましたときフィーラはまだ本を読んでいた。
「フィーラ、寝てないのですか」
エラナは前日、消耗した魔力を完全に回復させていなかった。普通の魔術師なら一晩もあれば十分だが、彼女ぐらい巨大な魔力だとかなりの休養を必要とする。
「三時間ほど寝ました」
「それだけじゃ、寝たとはいえないわよ」
「いつも通りの時間は寝ています。心配はいりません。それよりもここを教えて貰えますか」
そう言って、彼女は本の一文を指さした。
「えっ、もうそこまで読んでしまったの」
「早いですか」
「理解できてる。それに覚えなくちゃいけないことも書いてあったと思うけど」
エラナはその書物全てを覚えてもらうつもりでいた。基礎なのだから覚えなくでは今後に影響するからそう考えていた。それに自身は今後、動かなくてはならないこともあるので、ある程度は自習をさせるつもりでいた。
「覚えてます」
「じゃぁ、聞くけど二六八ページ目の一〇行目から言ってくれる」
エラナは意地悪のつもりでそう尋ねた。昔、何度も読んだので彼女は全てを暗記していた。
その質問にたいして、フィーラは一字一句間違えずに朗読した。
「じゃぁ、それにたいする答えは」
「三八七ページの一六行目に・・・」
そう言ってそこからまた朗読を始めた。
「う、嘘、私でも覚えるのに一ヵ月かかったのよ」
「村にあった本は全て覚えてます。だいたいの書物はありましたから言って頂ければお答えできます」
そう言われ、エラナは代表的な古代の兵略書の名をあげた。
それにたいしてフィーラはこれを一字一句間違わずに朗読してみせた。
その上でエラナが兵略にたいする幾つかの質問をしたが、これに彼女は的確な答えを出してみせた。
「ちゃんと理解してるのね。たいしたものだわ」
この時、既に昼を回っていた。
「そろそろ食事にしましょう。その後、リクイド城にある私の別荘に行きましょうか」
「はい」

のんびりとリクイド城へ向かう予定であったエラナは、瞬間移動で別荘にたどり着いた。
彼女の別荘は、リクイド城下でも騎士が住む屋敷の中に交じってあった。いわゆる高級住宅街だが、彼女はかなりの資産を持っていた。
「エラナ様、お着きはもう少し後では・・・」
屋敷の執事が出迎えた。執事は、彼女が幼い頃から仕える者で、両親が行方知れずの彼女の生活を支えている。
「ちょっと予定が変わってね、セラス、悪いのですが彼女に部屋を準備してあげて下さい」
「まだエラナ様が送られてきた書物が片付いておりませんので、どの部屋も一杯ですが・・・」
エラナは学院を出るにあたって、自分の荷物全てを屋敷に届けさせた。所有する書物、魔道器、実験器具、自信の魔道記録書など膨大な量を送っている。
「まぁ、全部送ったからかなりの量よね。まぁ、しばらくは私の部屋でいいわ。私はしばらく出かけますから」
「畏まりました」
「それから、私がいない間にセレナが来たら、おとなしく待ってるように伝えてちょうだい」
「畏まりました、お伝えいたします」
「フィーラ、ついてきなさい」
エラナはフィーラを、二階の書斎へ案内した。書斎には、様々な書物が山のように詰まれていた。
「まだ片付いてないけど、ここにあるのは自由に読んでも構わないわよ。読んでも理解できないのは、私が時間のある時にでも聞いてくれればいいわ。それかセレナが来たらセレナに聞いてくれてもいいわ」
「わかりました」
「あと、寝るところだけど・・・」
ふと書斎から続く隣の部屋を覗くが、書物でベットまで埋まっていた。
「・・・ちょっと待ってて片付けるから」
エラナ自信、ベットで寝ることが少なく殆どは書物を読みながら椅子で寝てることが殆どである。一時期、その為か腰を痛めてしまったこともあった。
「構いませんよ、ソファーでも十分に寝れますから」
「どうせ片付けなくちゃいけないものだから気にすること無いわよ」
書物の上に乗っている埃を払いながらそう言う。
「うわぁっ、三年も置いとくとすごいわね。フィーラ、悪いけど窓を開けてくれる」
そう言いながら、次々と片付けていく中でエラナの手が止まった。手伝っていたフィーラもその書物も見て驚いた。
「こんな所にあったのね、どおりで探しても見つからないはずだわ」
「その本は・・・」
「知ってるの」
「はい、村にその本の写しがありました。まさか原本が残ってなんて・・・、最も難しすぎて理解できませんでしたけど」
「これは私の家に昔からあったものよ」
エラナの家には昔から数多くの古文書やらが大量にあった。彼女の代までは殆ど忘れ去られたかのように倉にしまい込まれていたものを彼女は引っ張り出してきては読んでいた。
「たしか五〇〇年以上前の物だったと思いますけど」
「これを書いたガラバード帝国建国時の初代皇帝の第一王妃で、学院の創設者であるからそれぐらいにはなるわね」
「たしか名前が・・・」
「エラナよ、私の先祖にあたるわ。だけどこれは王家から一度も持ち出されることも無かったし、王家の分家としてここにあるから写本が存在するはずはないのだけど・・・、そういえば昔、ミレニア族で宮廷魔術師を勤めた人がいたわね。するとその人が書き写したものかもしれないわね」
「エラナさんは帝国王家の血を引いてられるのですか」
「一応はね、だけど完全な分家だから王族とはいいがたいわね。それに、何代も前に王家とは縁を切ってるわ。それに分家なら他にもあるわ。現在の帝国で公爵位にある貴族はおおよそ血を引いてるわよ。最近で最も新しい分家が先代黒騎士団長アルスターク公爵家ね。もっともまだ分家としての家紋は貰ってないけどね」
「ここリクイド城の太主ブラネス様ですね」
リクイド城の太主ブラネスは現皇帝の弟で、現在では息子のベネラルに譲ったが前黒騎士団長である。
「良く知ってたわね」
「国境付近で、ベネラル様にお会いしました」
ベネラルは国境で公国軍と交戦しており、フィーラの村は戦場から少し離れた場所にあった。
「そう、ベネラルに合ったのね、それで彼をどうみましたか」
「数倍の相手にしての戦術、指揮官としての実力、あの方ならば国境は守られるかと」
「だけど、ベネラルはそれ以上の事をするわ。一応、彼が反アルウスの指導者になるわ。逆に言えば、いずれ貴方が仕えることになるはずよ」
「ですが、ベネラル様は帝位敬承敬承権は」
「第三位よ、だけど第一王子のテュランはアルウスの操り人形だし、ベネラルのもとにいる第二位のフォーラルなら立派な皇帝にはなれるでしょうけど、彼は優しすぎて乱世を生き抜くことはできないわ。これでも未来を予知する事は出来るわ、大まかなことしかできないけどそれでもベネラルが最終的に皇帝になることは確かよ」
エラナもフェーナ程ではないが、ある程度の未来を見ることが出来る。どちらかといえば、フェーナのような未来よりは人を見る洞察力と行った方が正しい。
「ちょっと、余分な話をしてしまったわね。とりあえずこれだけ片付けておけば十分でしょう。後はセラスに片付けてもらうわ。それからフィーラ、これだけは覚えておくといいわ、過ぎ去った過去は真実だけど、これから起ることを本当に予言することはできないわ、未来は自信の力で変えることができるわ」
「・・・」
「一族の復讐を考えることがいけないとはいわないわ、だけど貴方にはそれ以外にも果たさなくてはならないことがあるはずよ。例えば、貴方を生き残らせてくれた両親の為にも生き残るということよ」
「わかりました、今は魔術を覚えることを私の生きる道と考えます」
フィーラは俯いて、胸に手を当てていた。

その日、エラナはそのまま屋敷に残った。彼女の部屋にフィーラはいない、セラスが急ぎで客間を片付け彼女が寝る場所だけは確保してくれたためだ。
エラナはベットで横になると、彼女に話しかけてくる声があった。
『あの娘、既に冥界の門をくぐっていますね』
『セレネイド様』
エラナは法皇の名を頭の中で唱えた。
『おそらく両親の血で蘇った命でしょう』
知られていないが、法皇はすべての創世者である聖母の分身、生をつかさどる聖皇と呼ぶこともできる。エラナだけが彼女から知らされた真実である。
『彼女の額にあった駄天の印、間違いないでしょうね。貴方は法皇としてどう考えらるのですか』
『人には人それぞれの人生があります。それを良くするも悪くするもその人次第です。それに今の私にそれをどうにかする力もありませんし、どうしようとも思いません。決めるのは貴方達人間です。ですが、そうと知って手もとに置くからには貴方はそれを受け入れたのではないのですか』
『そうね、だけどそれだけでもないわ。彼女を見てると昔の自分を思い出すわ。私はあんなにまっすぐと生きられなかったけど、魔術を教えるには素晴らしい素材だわ』
『それだけですか』
『今はわからないわ、だけどいずれ彼女はより大きな壁にぶつかるわ。その手助けが少しでも出来ればいいと思うわ』
『では、最後にこれだけは言っておきますね。法は与えられるだけのものではないわ。法はより素晴らしいものを手に入れる為にあったこそその価値を示すものです』
『行かれるのですか』
『これ以上、貴方に教えることはありません。また合いたくなったら別の私を尋ねてくるか。私を降臨させなさい』
それだけ語るとセレネイドの意志がエラナの中から消えた。
「未来の為か・・・」
そう呟き、眠り身を任せた。

翌朝、エラナはフィーラに幾つかの課題を与えると屋敷を後にした。
そしてエラナは再び帝都へ舞い戻った。
彼女が向かった先は、帝国の裏世界を取り仕切るといわれる盗賊ギルドであった。彼女にとってそこを捜し出すことはさしたる苦にはならなかった。何人かの盗賊に簡単な魔術を使うだけで十分だった。
そして意外な事にギルドマスターは、古くから続く帝国貴族であった。
「なるほどね、どおりで金回りがいいはずね」
屋敷の前でそう呟き、姿隠しの魔法で姿を消すとそのまま屋敷の中に立ち入った。こうすれば余分な戦いが避けられる。音、臭い、気配まで消してしまえば盗賊といえども気付くことはできない。
彼女が再び姿を現わしたのは、屋敷の主の前だった。
「侯爵、お久しぶりね」
「エラナ、学院を追放にされたのではないのか」
侯爵はエラナが造った魔法物品を売る得意先の一人だった。エラナは資金を手にするには相手を選ばなかった。金さえ出せるならば誰にでも売っていた。それを使いこなせるかどうかは関係はない。
「さすがに情報が早いのね。これは学院の上層部しか知らないことなのにね」
「俺の正体を知った上で来ておるのだろ」
「もちろんよ、ちょっと聞きたいことがあってね」
「何を知りたい」
盗賊ギルドに調べられないことはない。どんな極秘事項でも手に入れる。そしてそれを求める者がいることで取引が成立する。
「抵抗すると思ったけど、素直なのね」
「お前を相手にして生き残る自信はなくてな。おそらくナンバーワンの殺し屋でもお前を殺せんだろうしな」
エラナは優れた魔術師であるが、格闘においてもかなりの実力はある。それ以上に、彼女には魔法の力で相手の気配を完全に察知することが出来る。彼女に手傷をおわせようと思うならば、彼女の反射速度よりも早く仕掛けるしかない。だが、魔導師といえども彼女の反応速度は並外れているし、瞬時に魔法を唱えられることを考えれば暗殺者では手にあまる。
「まぁいいわ、率直に聞くわ。アルウスの背後関係を知りたいわ」
「あいつに背後も無かろう。あいつの道具達についてなら良くわかってるがな」
他人を信用しないアルウスにとって、自らに仕えるものは便利な道具としか考えてはいない。いくらでも取り替えの出来るものだと思っている。
「そんな小物に用はないわ、私が知りたいのは奴を道具と見なしている存在よ」
「望むなら調べてやらぬ事も無いが」
相手が望み金さえ準備すれば理由は問わない。これが彼らのやり方である。
「結構よ、だけど覚えておくといいわ。私がいる限り、アルウスの天下はそんなに長く続かないわよ」
「だろうな、黒騎士団が本気になればアルウスの闇騎士団なんかでは相手にならんだろうな」
闇騎士団はアルウスが指揮をとる軍団で、彼が権力を手に入れてから創設された騎士団で、それぞれが優れた剣士であると同時に魔法を使用することができる。
それに対抗する黒騎士団は魔法こそ使えないが、帝国の歴史を支えてきたエリート集団、個々の実力も優れているが統率をとった黒騎士団には最強の名がふさわしい。
「だけど、本当の最強の騎士団は別にいるわよ」
「魔法騎士団か」
魔法騎士団は建国当初あった騎士団だが、魔法使いの実力の低下と共に消えていった騎士団である。
「じきに復活するわ。その時、全てがくつがえるわ」
「ついでだ、アルウスが近じかベネラルを反逆者に仕立てあげるらしいぜ」
「そう、予想通りの行動ね。だけどそれがあだになるわ。アルウスはベネラルの本当の力をしらないのだから」
「さて、俺もそろそろどこかに隠れさせてもらおうか」
「アルウスを恐れるの」
アルウスは裏切りに対しては容赦はしない。裏切り者に待っているのは死以外に無い。
「それもあるが、いかに剣将と呼ばれた俺でも魔法使いを相手にやり合う気はない」
「そんな心配はいらないわ。私が最高の逃げ場を準備してあげるもの」
彼女を包むように幾つかの火球が姿を現わした。
「ま、まて、なんの為に俺が情報を・・・」
「別に話してもらう必要なんていらないわ、私にとって貴方の記憶を覗くぐらいの事はたやすいことよ。少し長話をしたのも全部覗くだけの時間稼ぎにすぎないわ」
次の瞬間、屋敷ごと全て消し飛んだ。
「さて、すこしアルウスの手ゴマを減らしておいた方がいいみたいね」
先程覗いた侯爵の記憶から、エラナは何人かを目標と決めた。

その夜、アルウスの配下の中でもとりわけ優秀な数十人の姿が消えていた。
宮廷魔術師、宮廷司祭、内務・外務・財務大臣、司教が数名、学院導師が数名、それが主な人物であった。身分はさまざま、中には剣も魔術も使えない者も混ざっている。そうゆう者はかわりに知を持っている。
エラナは最後の標的とした男の前にいた。
相手は、闇騎士団の団長であった。
「悪いけど、消えてもらうわ。怨むならアルウスに仕えた自分自身を怨むことね」
「今の貴様にそれが出来るのか。おそらくお前は今晩既に何十人も殺したのだろ、アルウス様の直属配下はそんなに簡単な相手では無かったはずだ」
エラナはかなりの返り血を浴びていた。同時にかなりの魔力も消耗していた。抵抗する力の無いものもいたが、彼のいうとおり、一癖も二癖ある者ばかりだった。
「ちまちまやることがこんなに面倒だとは思わなかったわ。だけど貴方を殺すぐらいの力なら十分あるわよ」
「できるのか、この西方軍王であるこの俺を」
人間である気配が絶ち消え、魔の気配が辺りを包み込む。
「やはりね、貴方を倒しておいた方が後々楽になるとは思ってたけどこれほど楽になるとは思わなかったわ」
突如、辺りの空間がゆがんだ。
「な、これは」
軍王は多少驚きを見せた。
「ちょっと派手になりそうだから異空間を造らせてもらったわ」
「余分に力を使って俺に勝つつもりか」
空間を創り出すことは、人間に出来るものではない。彼女自信の魔力もあるが、これは法皇セレネイドから彼女が得た力の一つだった。
「貴方なんて、魔皇クライシストと比べれば小物に過ぎないわ」
「なんだと」
クライシストの名は魔神獣ならば知っていて当然、彼らを創り出したのがクライシストである。
「魔皇剣(クライシスト・ブレード)」
両手で持つような巨大な剣が彼女の両手に現れた。
普通の魔術師は他の力を借りた魔法を使用することはしない、逆に支配されてしまう危険性が高い為であるが、自らに封じたエラナにとってはさほど難しいことではない。
「本気でいかせて貰うわ、はぁぁぁっ!」
これを西方軍王は自らの剣で受け止めようとするが、人間の力を甘く見た西方軍王の剣は音も立てずに粉々に砕け散った。
「次に身を守ってくれるものはもう無いわよ」
エラナは剣を下段に構える。
「くっ、超炎魔閃砲(ファイア・キャノン)!」
エラナは火炎砲を闇の剣で叩き切る。同時に間合いをつめるが、彼女が振るった剣は宙を切るだけだった。
さすがのエラナもこれだけの術を維持するのは厳しかった。額に汗が流れている。
彼女は剣を維持することを諦め、術を解いた。
「はぁはぁはぁっ、魔皇闇獣破(クライシスト・ウォルド)!」
剣同様に魔皇の力を借りた術であるが、西方軍王は、彼女の術はいともあっさりとかわす。
「魔散弾(マジック・ブリット)!」
術の威力を格段に下げ、数で勝負する方法に切り替える。この機転の早さが彼女の強さの秘密といっても良い。
「氷傷凍射(フリーズ・ブラスト)!」
相手が避ける方向を予測しながら続けさまに術を打ち込み、確実に動ける範囲を狭めてゆく。
「魔力剣(マジック・ブレード)」
相手が避けた瞬間、エラナは間合いをつめることに成功した。
”ざむっ!”
音を立てて、西方軍王の右手首を切り落とした。そしてそのまま横薙ぎで切りつけるが、これはかわされてしまう。
「ほう、お前が万全の状態ならばやばかったぜ」
そう言いながら、西方軍王は切られた右手首を再生させる。魔神獣はこちらの世界では本体を持たない。具現化しているにすぎなず、手足を蘇生させることなどはたやすい。最もそれにはそれだけの魔力があることが条件である。繰り返せば、いずれ力を失っていく。
「このままじゃ、決着がつきそうにないわね。この勝負預けておくわ。一応、名前ぐらいは聞いておきましょう」
エラナの疲労が無ければ倒せない相手ではない。今の状態で戦えば負けはしないものの共倒れになる可能性が高い。
「俺か、俺は西方軍王ラティール」
「いずれ、近いうちに決着をつけにくるわ」
それだけ言い残して、エラナは空間を戻すと瞬間移動で姿を消した。

西方軍王ラティールとの戦いの場から姿を消したエラナは、帝都の裏通りの酒場にいた。
血のついたローブを着ている彼女を亭主は最初は断ろうとしたが、彼女に睨まれた黙って店にいれた。彼女の瞳からは多くの命を奪ってきたことを伺える。特に裏通りで経営している酒場の店主はそれをよく知っている。
「白ワインと何か軽いものを」
「隣、いいかしら」
エラナが店に入ってきたことを確認し、奥のテーブルから近づいてきて、彼女の返事を聞く前にとなりに一人の女性が座った。
見た目は、ごく普通の村娘のような風格をしているが身に付けている皮鎧がそうで無いことを示していた。
「こんな所にいるなんて珍しいわね」
エラナはその女性にそう言った。彼女が知っている相手である。
「そでもないわよ、兄さんに似たのか。よく来るのよ」
「だけどタイミングがいいわね。私がここに来ることなんて誰にもわからないはずよ」
「ちょっとした感よ、それよりもエラナ、随分と派手に殺ったみたいね」
彼女の鎧にも、魔物と戦ったときに傷付いた後が残っている。
「レーナ、人聞きの悪いこといわないでよ。別に何の罪の無い人間を殺してるわけじゃないのよ」
聖王国に戻っていたラクレーナであった。
「で、何人殺したんですか」
「二四人よ、もう一人殺す予定だったけど予定が狂ってね」
「貴方が倒せない相手なんてそうはいないでしょう。どんな相手なのです」
「貴方じゃ無理よ、いくらフォルク直伝の槍技でも無理よ。それに貴方の専門は天空でしょ」
まだラクレーナは、法皇から授かった力のことをエラナにはあかしてはいない。魔道ではエラナに勝てないが、武器を使った戦いならエラナを圧倒的にしのぐ実力はあった。
「まぁね、だけど一人殺し損なったのならすぐに手配がかかって厄介になるんじゃないの」
ラクレーナは、自身の力を自覚している。フォルクがそもそも強すぎることもあるが、フォルクが彼女に強く教えたことは己の力を知ることだった。
「それはないわ、あいつの性格を考えるなら自分自身で来るでしょうね。雑魚じゃどうにもならないことぐらい理解してると思うわよ。もっともアルウスがどうするつもりかはしらないけど、どっちにしても私がベネラルとつながってるのは事実よ」
「私は一度、聖王国へ戻るわ。これでも天馬騎士団長ですから」
彼女は前にエラナの元を立ち去り聖王国で実力を認められ、一九歳で天馬騎士団長に就任していた。そもそも彼女だけは唯一野生に跨ることが許された騎士である。
「もう騎士団長までになれたのですか、今度合うときは戦場でしょうね」
「決戦の時が近くなったら、呼んで下さいスティールもそのつもりでいるようですから」
「そうすると、正式な使者を立てた方がよさそうね。いいわ、その辺りは私でどうにかしておくわ」
「ですけど、戦場でとなりそうですけど昔の仲間が久しぶりにそろえそうですね」
「フェルドも来てくれればね」
フェルドは聖王国、竜騎士団の団長でプロミスト半島最強と呼ばれる竜に跨る。彼の師はベネラル、スティールと同じくフォルクである。
「兄ですか、来ると思いますよ」
彼女自信を育てたのはフォルクだが、フェルドとは本当の兄妹である。フェルドがフォルクの元で学んでいた頃にわかった事である。フェルドとラクレーナは、ラクレーナが産まれてまもない頃に、山賊団に襲われ離れ離れとなっていた。偶然にその近くに居合わせたフォルクが見つけたものだった。彼が見つけるのがもう少し遅ければ、彼女は魔物の餌となっていた。
「まぁ、楽しみにしてるわ。そんなに時間はかからないとおもうわ」
「じゃ、私はこれぐらいにして帰るわ」
「今から?、まだ暗いわよ」
「別に問題にはならないわ、どっちにしろ三日ぐらいは飛ばなくちゃいけないから」
帝都と聖都の距離はおよそ一八〇〇劼△襦G呂鯣瑤个靴討眛鷭鬼岼幣紊呂かる。その距離を彼女は三日で飛ぶ。街道とは違い山の上を飛び越えていけるが、それでもかなりのスピードで飛ぶことになる。
「もう少し待ってくれるなら、聖都までなら送ってくわよ」
「別にいいわよ、そこまでして急ぐ必要無いから」
それだけ言って、ラクレーナは店を出ていった。
エラナも彼女が出ていってすぐ、店を出た。そして裏路地を少し行った所で姿を消した。

翌朝、帝都ではベネラルを反逆者とする発表がされた。エラナはこの報を近くの村で耳にした。
村にはエラナが集めた。多くの騎士が集まっていた。これらの騎士は全て魔法をも使える魔法騎士であった。その数二〇〇名、フレア公爵領で集めていた同志達である。
「エラナ様、ベネラル様が反逆者として手配されたとのことです」
魔法騎士団は若者だけで組織されている。平均年齢が二〇・五歳とエラナよりは年が高いものは多いが、誰しもエラナの実力は評価している。この中でエラナだけが導師の資格を有している。
「少し出方を伺ってくると思ってたんですが、随分と早い決断でしたね。どちらにしろ、こちらの思っているように事が進んでいることは事実です。それほど慌てる必要もないでしょう。ですが、いつでも出られるようにはしておいて下さい」
「畏まりました」
魔法騎士はほかの騎士団のように重い鎧を着込んだりはしないが、魔法で強化された鎧を着ている。
「それから騎士隊長には、三〇分後に集まるように伝えて下さい」
「畏まりました」
エラナはまだ眠気が消え去っていなかった。少しでも気を許すとそのまま眠ってしまいそうだった。それだけ昨晩の消耗は激しかった。
結局エラナは、三〇分間眠ることを選んだ。
最初の騎士隊長が扉の前に近づくと同時に彼女は目を覚ました。
「カリテですか、入りなさい」
「はっ」
最初に姿を現わしたのは最年長の騎士隊長であり、同時に彼女が不在である場合に指揮権を引き継ぐ立場にもある。
数分遅れてもう一人の騎士隊長マルシュも姿を現わした。全部で二人、それが現在いる全ての騎士隊長である。
「これからの事ですが、当初の予定通りベネラルと合流するのに変わりはありません。ですが、その前に一戦することになるでしょう」
「小規模の相手でしたらどうにか出来るでしょうが、数千の軍を出されてはどうすることもできませんよ」
カリテが意見を述べた。
「それには心配は及びません、リクイド城から黒騎士団が出る事になっています。黒騎士団副団長のブラッサムが来てくれることになってます。それと重騎士団長グランテールも協力してくれる事になっています。そこでの指揮を私がとることにとるので、魔法騎士団には私の近衛隊として動いて頂きます」
「なるほど、それならば十分に出来ましょう」
「相手は」
マルシュが尋ねた。
「私が昨日調べた限りでは、闇騎士団三〇〇〇、騎士団二万がすぐに動けるアルウス側の戦力です」
「民兵の導入されると考えると、およそ一〇万ですね」
「重騎士団が協力して頂けるならば、四万の戦力がありますね」
「そうなります。数では劣りますが騎士の数ではこちらに分があります」
エラナは出陣の日を明後日と発表し、会議は終わった。

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