幻水の作家な気分

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第二部  第一章 初陣前夜


ガラバード帝国の最も大きな都市といえば帝都ラクーンだが、今最も産業が盛んな街はといわれるとフレア公爵領であると言われるほどだった。
そんな公爵領に客が訪れていた。
「久しぶりですねベネラル」
「あの任務以来だから1年半ぶりか」
ベネラルはこの1年半で騎士団の半数を任される副団長までになっていた。
「もうそれほど経ちますか」
「夢中になるとそれだけに専念するのは変わってはいないな」
「本家の学院の方も顔を出すことも少なくなりましたしね。そろそろ一度、顔を出さないといけないでしょうけど」
「しかし、当時の村の面影はまるで無いな」
「それだけの資金は投入しましたからね」
「回収できるのか」
「あと5年もあれば十分回収できるでしょう」
「そうか、それでだエラナ」
「なんです」
「あまり派手にやるもので、帝都内でいろいろ噂が経っているぞ」
「彼らからすれば面白くないでしょうからね」
エラナはたった1年足らずでここまでの発展をさせた。だが帝都の役人たちは何十年とかけてそれをできずにいる。それにより民の不満が増えてきたいた。
「中にはこれは帝国に反逆する為の準備をしているのだとい話まであるんだぞ」
「反逆ですか、それでここへ兵を差し向けようとでもしていますか」
「さすがにそれはない、今ここで兵を向ければ帝国内全土で民が反乱を起こすだろうからな。それにこの辺りは我が黒騎士団の管轄でもあるから、こちらの許可なく兵を動かせばわれわれを敵に回すことになる。いくらなんでもそれはないだろう」
黒騎士団の数は、帝国全騎士団の中から見ても極わずかな数だが帝国500年と同じ歴史を持つ黒騎士団の強さは他の騎士団とは別格である。黒騎士一人一人が、普通の騎士、数人分の働きをするとまで言われる。
「一度、皇帝陛下のもとに挨拶に行ってきますか」
「陛下にか、たしか何度か陛下と会った事があったな」
「公式で最後に会ったのが5年ぐらい前だと思いますけどね」
「そんなにもなるか」
「貴方が騎士になった時ですからそれぐらいでしょう」
「ああ、俺の任命式の時か」
「公式以外では何度かお会いすることは多いですが、あえて領主として公式に謁見して見ますか」
「ちょうどいい、5日後から、1ヶ月ほど俺は王宮警護の任務になる。その時に見学させてもらおうか」
「構いませんよ」

エラナは、ベネラルが上京するということで一緒にリクイド城を出て帝都へ向かった。
同行するのは従者のクリスと同時に帝都に勤める黒騎士1000名であった。黒騎士団は月交代で帝都内の警備を行う。
一方のエラナは黒騎士団と一緒であることもあり、領地から同行者は無く。留守を妹セレナに任せてきている。
黒騎士団の行軍ということもあり、帝都までの道のり3日は何事も無く無事に到着した。
帝都に付くと、ベネラルは黒騎士の騎士館に向かった為、エラナは単身でまずは学院に顔を出した。
エラナが学院に入るとほとんどの導師は彼女の姿を確認すると自室へ入って行ってしまう。
「ラスティーク師は見えますか」
受付の魔道師にそう尋ねる。
「はい、自室におられるかと」
「ありがとう」
エラナはそのまま導師の塔へ向かう。
塔の自室のある階層を越え、上階へ入ると部屋から出てくる女性がいた。
「エラナ、久しぶりですね」
「メリアさん、お久しぶりです」
彼女は、ラスティーク師の弟子でエラナの姉弟子にあたる。エラナが導師になるまでは次期最高導師とも言われるほどの実力者だが、ただ多くの魔道師が苦しんだ病の為に数年の間に引退することになるが、エラナが不在が多い今、学院を支えているのは彼女といてもよかった。
「しかし急にどうしたのです」
「陛下に謁見しようと思い帝都に来たのですが、挨拶をしないわけにはいかないでしょう」
「そうですか、ですが宮殿には味方がいないと思うことですよ」
「もとより味方がいるとは思っていませんよ。ベネラルが私の謁見を楽しみだと行っていますよ」
「ベネラル卿がですか。まぁ貴女なら宮廷で屈することもないでしょう」
「勝算がないことをするつもりはありませんよ」
「でしょうね、で、分室の方はどうですか」
「叔父上がうまくやってくれてますよ」
「そうですか」
「それでは師を訪れなければいけませんのでこれで」
エラナはメリアと分かれるとそのまま最高導師の部屋へと向かった。

翌日エラナは皇帝と謁見する為に宮殿へ向かった。この日の彼女の服装は導師ではなく、貴族の貴婦人がごときドレスにて参内した。彼女が公爵ということもあり謁見を申し込むとすぐに受理はされ、すぐに通された。
「フレア公爵家、当主エラナ・フレア殿です」
そういい近衛騎士の一人が謁見の間の扉をあけた。
謁見の間には、皇帝の他に宮廷魔術師、宮廷司祭、近衛騎士団長、黒騎士団副団長ベネラルなど、文武官僚が集まっている。
エラナは皇帝の前まで進むと臣下の礼にのっとり片膝を付く。
「陛下、ご無沙汰しておりました。フレア公爵家当主エラナ・フレアです」
エラナといえば導師というイメージが強いため、彼女の美に関して気に留めるものは少ないがこの日の彼女は帝都で最も美しいといわれる貴婦人とでもいえるいでたちであった。
「エラナか、久しいな。何年かぶりであるな。随分と立派になったのう」
「有難う御座います」
「フレア公爵領土のこと聞いておる。短い間であそこまで発展させるとは見事なものだ」
「ありがとうございます」
「しかし、美しくなったものだ。そろそろ婿を考えてはどうだ。そうは思わぬかベネラル」
「・・・あっ、そのっ・・・」
突如話をふられ、あわてて答える。彼もこれまで見せたことのなかったエラナの美しさに目を奪われていた一人だった。
「戯言じゃ、そう真面目に答えようとは思うな。ところでエラナ、この宮廷内で政務を勤めて見ぬか」
皇帝のその言葉に、宮廷司祭アルウスが顔をしかめたのをエラナは見逃さなかった。
「私は領主として当然の事をしたまで、功績をあげたわけではありません。今、新たな役に付くことはできません」
「そうか、アルウスどう思う」
「はっ、公爵の統治の事は私も聞き及んでおりますが、たしかに彼女の言にも一理あります。いかがでしょうか、なにか任務をおあたえになられては」
「任務とな」
「はい、西の反乱軍が妙な動きをしているとの連絡があります。国境警備を命じてはいかがでしょうか」
西の反乱軍とは、ガラバード帝国と国境を接するファーマ公国の事を言う。かってはそれらの領土も帝国の領地であったため、公国が独立して数百年経つ今も帝国は公国を認知していない。
「なるほど」
「いかがでしょうか、黒騎士団ベネラル副団長を総大将としてフレア公爵殿には軍師として従軍していただくことで」
「ベネラル」
「はっ」
ベネラルはエラナの隣に歩み出る。
「そなたを国境警備隊に命じる。エラナを軍師として任にあたれ」
「畏まりました」
「エラナ、聞いてのとおりだ。よいな」
「はい」
「アルウス、必要な食料などの準備はそなたに任せる」
「畏まりました」
「それとエラナ、兵はどの程度必要だ」
「アルウス殿、国境の反乱軍、いかほどの数でしょうか」
エラナが尋ねる。
「大きな報告ではなかったが、おそらく5万から10万程度だと見る」
「わかりました、では黒騎士団2000騎と、半騎士団12500騎をお借りしたく思います」
「その程度の兵で良いのか」
皇帝が尋ねる。
「十分かと思います」
「多すぎて困る事はあるまい、あと騎兵隊20000騎も連れて行くがよい」
「陛下のお言葉のままに」
そう答えるとエラナはベネラルとともに退席した。

「思わぬ展開になったな」
謁見の間から退出しベネラルが話しかける。
「大方予想通りですよ。陛下が私を手元に起きたいのは事実、ですがアルウスからすればそれは拒みたい、ならば一時的にでも準備するための時間として私を前線に送りこんでも時間を稼ぐ」
「あえてその時間を与えるのか」
「前線まで1ヶ月半、戦場で決着付くのにどれだけかかるかわかりませんが最低でも半年の任務でしょうね」
「それぐらいはかかるだろうな」
「ベネラル、出立までは1週間ぐらいあれば十分ですか」
「食料の準備もあるからそれぐらいだろう」
「そちらはお任せします。陛下の戯言とはいえ、貴方があれほど動揺するとは思いませんでしたよ」
「お前がそんな格好で謁見するとは思っていなかったのもあるが、なんだってそんな格好で来たんだ」
「謁見の間に集まったものの目を引くことはできたでしょう」
「それは間違いないが、しばらくいろいろな貴族から求婚の申し出があるんじゃないのか」
「戦場、それも最前線までに送ってくるものはいないでしょう」
「何もかも計算した上でか」
「ある程度はね。それに中立派の一部は今後、こちらに味方する可能性を作るのも悪くないでしょう」
「なるほどな」
「さてと、私はさきにやっておくことがありますから、少し別行動をさせてもらいます」
「わかった、出立の準備はこちらで進めておく」
「用がある場合は、学院の方に連絡をください。いなければルキシード導師に言ってもらえれば私と連絡を取れるようにしておきます」
「わかった」

王宮を出るとエラナは、普段の導師のローブに着替えるとスラム街へ向かった。
帝都は帝国内で最も栄えた都市でもあるがその一方で多くの者が路頭に迷う都市でもある。最も貧困の差が大きい都市、それが帝都ラクーンの姿である。
スラム街の住人から見れば、エラナの服装は完全に浮いたものであり、普通なら襲われることすらありえるが、スラム街の者もエラナの噂を知っている。過去にエラナを襲った者もいたが、その時の結果を知る者も多いため、彼女に手を出すものはいない。
エラナが向かった先は、スラム街にある古びた教会だった。
教会の外では子供達が駆け回っていた。
「司祭はいますか」
「いるよ」
子供からそう答えが返ってくる。
「ありがとう」
そう言うとそのまま神殿に入る。神殿に入ると祭壇で祈りをささげる女性がいる。
「司祭、お久しぶりです」
「エラナさんですか、久しぶね」
彼女はミレーラ・フローリアといい、スラム街の神殿で孤児を引き取っては世話をしている。帝都中心の大神殿へ行けば大司教にもなれるがあえて彼女はここで孤児を育てている。
「とりあえず、これを」
そういい、小さな袋を手渡す。
「毎回、毎回こんなによろしいのですか」
「子供達に使ってあげてください」
エラナが手渡したのは金貨の入った袋、たまに来てはエラナはお金を置いていく。
「有難う御座います」
「とりあえず今日、うかがった理由ですけど何人か私の方で受けようかと思いまして、私が領地内で学院を建設したことは聞いてると思います」
「それはすばらしいお話有難う御座います」
「妹のセレナにその事は伝えておきますから、セレナに迎えに来るようにいいますので」
「わかりました」
「それと私が、軍の方へ従軍することになったので、私の身の回りを任せれるものが欲しいのですが誰かいませんか」
「そうですね、私の娘のサリナを連れて行くといいでしょう。すでにある程度の神聖魔術は使えますのでお役には立てるでしょう」
「かまわないのですか」
「娘には私のような苦労はあじあわせたくありませんからね」
「わかりました」
「サリナ」
ミレーラが大きな声で呼ぶ。
「お母様、お呼びですか」
「サリナ、エラナさんの侍女として同行してあげなさい」
「わかりました」
サリナはまだ9歳だが、物腰もはっきりとしており将来を期待できるといってもよかった。
「サリナ、すぐに出立の用意を」
ミレーラにいわれ、サリナはすぐに部屋って行った。逆に二人の幼い子供が入ってきた。
「お母様」
「二人ともこちらへいらっしゃい」
このときのエラナの顔は母親の顔になっていた。
「よい子にしておりましたか」
「はい」
一人はエレナ、もう一人がフォン、二人ともエラナの娘である。
「今回はすぐに行ってしまいますけど、今度来るときは時間を取れるようにしますからね」
サリナは自室へ戻ると5分もしないうちに準備をすると戻ってきた。
「エラナ様、よろしくお願いいたします」
「頼みますよ、ではミレーラ司祭、これで失礼します」
エラナは娘達に別れを告げるとサリナと神殿を出ると、そのまま大神殿へと向かった。

「フレア公爵領の当主、エラナ・フレアと申します。ハーパリン総大司教にお目にかかりたい」
「少々お待ちください」
神官は暫くするとすぐに戻ってきた。
「お会いになられるそうです。こちらへどうぞ」
神官は、エラナとサリナを総大司教の部屋へ案内する。
「エラナ・フレア殿をお連れしました」
「入ってもらいなさい」
扉の向こうからそう返って来る。
案内されるままエラナはサリナと部屋に入る。
「総大司教猊下お久しぶりです」
「久しぶりだな」
「お久しぶりです」
総大司教の部屋にはもう一人、嫡子ラルク・ハーパリンの姿もあった。ラルクは以前の任務で一緒に行動した仲間でもある。そんな彼も今は神官騎士団長であると同時に教会騎士団の一員として神殿内の警備を任されている。
「お初にお目にかかります。サリナ・フローリアと申します」
サリナが挨拶をする。
「フローリア、例の司祭の娘か」
「はい、私の侍女として借り受けてきました」
「なるほど」
「一度、総大司教に会わせておこうと思いまして」
「そうか、ラルク、私はこの娘と少し話をするのでエラナ殿を神殿内を案内してやってくれ」
「わかりました」
「では、エラナさんこちらへ」
言われるままエラナはラルクの案内を受ける。
「ラルク、あれから腕はあげていますか」
「お試しになりますか」
「そうね、あちらも時間はかかるでしょうからね」
エラナとラルクはそのまま神官騎士達が訓練を行う訓練所まで来た。
「真剣勝負と行きましょうか」
「わかりました」
エラナとラルクが入ってくると、訓練していた者が場所を開けてくれる。
エラナはローブを脱ぎ、下に来て着ている動きやすい格好になる。一方のラルクもサーコートを脱いだ。
「一本勝負」
「だれか合図を」
ラルクは一人の神官騎士に向かってそう言う。
「はじめ!」
合図とともにエラナ、ラルクが同時に動く。
二人の剣が交じあい、その音だけが訓練所に響き渡る。
両者背後に飛び同時に間合いを取ると、再び剣を振るう。幾度か剣音が響く。
「随分と腕を上げましたね」
再び間合いを取ったエラナがそう言う。
「こうも簡単に受け止められるとは」
「そろそろ本気で行きますよ」
同時にエラナがラルクを取り囲むように回転し始める。エラナが幾人もに見えてくる。
「剣舞」
エラナがもっとも得意とする剣技、流水の動きからくる剣舞、次に来る技はラルクは知っている。フォルク流剣術風技・奥義回転剣舞。
だが、ここで来たのは違った。
『魔道剣術奥義・幻影剣舞』
これこそエラナが剣王フォルクの剣術と自らの魔術を組み合わせて彼女独自が編み出した技である。
その一撃、ラルクは2・3撃までは受け止める事はできた。だが4撃目を受けたとき彼の剣が宙を舞った。
見学していた神官騎士達は暫く沈黙していた。ラルクは彼らの中でも突出した実力を持っており彼に勝てるものはこの中にはいない。そんなラルクをエラナが倒したのだ。
「勝負あり、そこまで!」
かなり遅れ最初に合図を送った神官騎士が終了を告げる。
「参りました」
ラルクが負けを認める。
「ですが、たいしたものです。まさか3撃まで受け止めれるとは思いませんでしたよ。最もレーナには全て避けられてしまったものですけどね。受け止めたのは貴方が初めてですよ」
ラルクもラクレーナは知っている。自らより1つ年上ではあるが、スピード重視ではあるが、おおよそ当時で彼女の方が多少優れていたが、今は当時の彼女には追いついている自信はある。
「ベネラル卿とはやられていないのですか」
「ベネラルとは剣の型が違いますからね。それに私もここんとこずっと領地にこもってましたからね」
「なるほど」
「久しぶりに動いたついでです。少し、皆の手ほどきでもしましょうか」
そういい、エラナはそこにいる神官騎士達に剣を施した。
30分も経つ頃には他からも話を聞いて神官騎士達が加わり、大人数となっていたが、1時間もする頃には、みな疲れはてていた。
「だらしの無い。ラルク、彼らに神官騎士団の鎧を着せて半日走らせなさい。この程度の事で息を上げていては戦場では生き残れませんよ」
「わかりました」
そう話していると、総大司教とサリナが来る。
「話は終わりましたか」
「ああ、なんだ、訓練をしておったのか。ちょうどいいエラナ、この者たちを来週からの遠征へ連れて行ってやってくれんか。陛下には私から言っておく」
「かまいませんよ」
「ラルク、1000名を選び出立の準備をさせなさい。指揮はお前が取れ」
「わかりました」
「エラナ、この子はたいした才能の持ち主だ。私の名においてサリナを侍祭に奉じさせてもらった」
「有難う御座います」
「礼には及ばばんよ」
「では、私はそろそろ失礼いたします」
「出立の日にはラルクと1000騎を行かせる。頼みますぞ」
「畏まりました。サリナ、行きますよ」
「はい」

エラナは、大神殿を出るとそのまま学院に戻りサリナは自らの自室に残すとそのまま最高導師ラスティークを訪れた。
「ラスティーク様、来週からの従軍に数名私の世話役として連れて行きたい者がおりますがよろしいですか」
「誰をだ」
「私の叔父上の長男であるランフォートと、次男レイネートです」
「良かろう、二人とも準導師になったゆえ、そなたの領地の学院に行かせようと思っておったところだ。連れていくがよい」
「有難う御座います」
「で、エラナ」
「なんでしょう」
「そなたは本気で王宮に勤めるつもりか」
「そうはさせてくれ無いでしょう。できて軍部まででしょうね」
「そなたの事だ、何か考えがあってのことだとは思うが、アルウスには気を付けることだ」
「有難う御座います」
エラナは最高導師の部屋を後にするとそのまま自室へ戻った。
自室に戻ると、すでに時は夕刻でサリナが食事を作って待っていた。
神殿で母ミレーラを手伝っていた事もあり、料理の腕も確かなものだった。ただ貧しい生活をしていたこともあり、食材を手にあましているようにも見えた。
夕食を終えるとエラナは、サリナに学問を教えた。ある程度、学んでいたとはいえそれでもある程度の家の教育からすれば遅れているのは間違いない。
ただ違うのは、それをサリナが吸収して行くスピードである。もともとの才能もありエラナが教える事を次々と吸収して行く。
サリナが眠った事を確認するとエラナは一人、学院を出て冒険者が集まる酒場に向かった。
酒場へ入ると、エラナは数組のパーティと話をすると酒場を後にして学院へ戻った。

翌日はエラナは、転移魔法で領地へ一人戻るとセレナに留守の間の指示を出し、ラクレーナを連れて学院に戻った。
エラナがラクレーナを連れて戻った理由は、昨夜交渉した冒険者達を自ら直轄の部隊を編成する上でラクレーナを指揮官におくためだった。20名足らずの部隊だが別々のグループをまとめるにはある程度名の知れているラクレーナは適任だった。
その一方でエラナは、姉弟子メリア・ルキシードのルキシード商会を使いアルウスの資金源である財閥のいくつかにダメージを与えさせた。さらに帝国黒騎士団特別査察官としての権限を使い、数名を贈賄の容疑で逮捕した。中には抵抗したために彼女に斬られて命を落としたものも何人かいた。
出立の前日、エラナはベネラルのいる騎士館を訪れていた。
「あれだけダメージを与えておけば、私がいない間、回復するのに必死になるでしょうね」
「随分と派手にやったな、アルウスは随分とうらんでいるだろうな」
「違法な事は一切やっていませんからね、それに陛下がこちらに味方するのもわかっていますから、今の所何もしてはこないでしょう」
「それ以外の可能性もあるだろう」
「暗殺ですか」
「並みの暗殺者で私が殺せるものならですね。レーナと冒険者を20名を私直属の部隊として連れて行きます。それとハーパリン総大司教より神官騎士団1000名をラルクが率いて来るそうですので」
「ラルクかそれは心強いな」
「これで我が軍の兵力は、黒騎士2000騎、騎士12500騎、神官騎士1000騎、騎兵隊20000騎、それに傭兵隊20名で総兵力が35,520になります。人材もベネラル貴方を総大将と、私が軍師、傭兵隊長としてラクレーナ、神官騎士団からラルクと人材としては十分でしょう」
「そうだ、今回、陛下の次男のフォーラルが同行する事になっている。軍師の一員としてそなたの元で使って欲しい」
「わかりました」
フォーラルは皇帝の次男であるが、次期皇帝は長男のティアンであるとされいるため、現皇帝弟ブラネスが騎士団長を勤めるように黒騎士団にいるが、次期団長がベネラルと決まったいるようなものなので、彼はベネラルが団長になったときには参謀になる。これは彼が剣よりも策を得意とすることも理由ではあった。もし彼がベネラルと互角かそれ以上の剣技を有するならば団長もありえるが、ベネラルの剣技が圧倒的なこともあり彼の席は参謀となる。

翌日、宮廷にてベネラルとエラナは出立の報告を皇帝にした。
「吉報を期待しておるぞ」
「必ずや吉報を持って凱旋いたします」
ベネラルはそう言う。
ベネラル率いる一軍は出立式を終え、黒騎士団のみが堂々と王宮を出立する。他の部隊はすでに街の外に待機している。
従軍は、先頭がエラナの傭兵隊とベネラルが率いる黒騎士団が本陣、次にベネラル副官サーディンとブラッサムが騎士団を率いる。騎兵隊は、ベネラルの従者であるクリスが総指揮を取る。最後方にラルクが教会騎士団を率いる。
今回もエラナは馬車の上にあった。馬車の手綱はランフォートが取り、馬車の中にはレイネートとサリナの姿があり、馬車の右をラクレーナ、左にフォーラルが馬を進める。
「これだけの軍の行軍となるとそうそうたるものがありますね」
ラクレーナがエラナに話かける。
「総勢3万以上ですからね。戦場まではかなりの距離があります。そう気を張る必要は無いでしょうけど、統率だけは失わないように」
戦場までの行軍はエラナの当初の想像通り1ヶ月半を有した。
戦場に到着するとベネラルは一行は国境近くの砦に入った。砦にはすでに元より勤める国境警備・騎士団25000が滞在しており、アルト侯爵がその任に当たっていた。
「サンバス殿、久しぶりですな」
「ベネラル卿か、帝都より連絡は頂いております。我が軍は卿の傘下で協力せよとの事です」
「そうなると6万以上となるか」
「サンバス殿、反乱軍の様子をお聞きしたいがよろしいですか」
エラナが尋ねる。
「現状、反乱軍には動きはありませんが、国境付近に20万以上の兵を置いております」
「兵が動く様子は」
「ありませんが、いつでも動けるのは確かかと思います」
「なるほど、アルウスが言ってたこととは随分と違いがありますが、さほど支障は無いでしょう。不足するならサーソス城、リモール城の兵力を調達するのもありでしょう」
「両城とも1週間もあれば援軍は可能か」
「サーソス城には4騎士団、リモールには2騎士団あります。それ以外に騎兵隊、歩兵隊だけでも50万程度の数は集まるでしょう」
サンバスが答える。
「なるほど、こちらも準備しようと思えば20万以上の兵は動かせるわけか」
「もっとも、反乱軍20万相手なら5万もあれば十分でしょうけどね」
「私もエラナ殿の意見に賛成です。不用意に他を動かす必要は無いでしょう」
フォーラルが進言する。
「よかろう、エラナ、守りを固めるかこちらから仕掛けるかどうする?」
「待っていれば1年でも2年でも待たされましょう。こちらから仕掛けるしかないでしょう」
「なるほど」
「まずは国境に陣を築きます。その後一日ごとに陣を進め反乱軍が動くのを待ちます。10日もすれば敵砦の前まで到達するでしょうから、撃って出てこなければ砦を攻める事になりますが、おそらく撃って出てくるでしょう」
「無難な作戦ではありますね」
フォーラルが答える。
「どちらにせよ、行動は明日から今日は皆を休めさせましょう。さすがの私も少し長旅で疲れてしまいましたから」
「お部屋を用意させましょう。そちらでごゆっくりお休み下さい」
サンバスが申し出る
「有難う御座います。それとこの辺りですと川までどれぐらいありますか」
「川ですか、馬で半時間も行けばありますが」
「行軍の途中ではなかなか凝水もできませんでしたから」
「なるほど」
エラナについているサリナを見てサンバスは納得する。サリナは、総大司教ジェランズ・ハーパリンより正式に侍祭として認められた為、神殿の神官着と聖印を身に着けている。
「ラクレーナ、貴女はどうします」
「ご一緒させてもらいます」
「それじゃ、少し出かけてきます」
そう言い、エラナはラクレーナとサリナを連れて空に浮かび上がり、川がある方へ飛び去る。
「魔法は便利なものですね」
サンバスがそう洩らす。
「俺もエラナに連れられ飛んだ事があるが、慣れるまではあまり気持ちの言いものではないぞ。リクイド城からリスタール城まで運んでもらった事があるが、馬で4日かかる距離をたった1時間足らずの時間で飛ぶのだからな」
ベネラルがその時にエラナが飛んだ時速を示すなら時速400kmである。並みの魔道師で最速で飛んだとして50km/h、エラナの飛行スピードは圧倒的に飛びぬけている。もしエラナが帝都からこの砦までの距離1800kmをその速度で飛ぶとすると4時間半で移動することができる事になる。

二人を連れたエラナは、数分足らずで川まで到着した。
「さすが早いですね」
ラクレーナは天馬に乗ることもあり飛ぶ事に恐怖はない。
「並みの魔道師が飛べる速度の倍ぐらいでは飛んでいますからね」
「実際、どの程度の速度が出せるのですか」
「最高で帝都ラクーンとリスタール城の間を30分ぐらいですか。最も結界を使わないと私自身が持ちませんけどね」
時速800km、それがエラナが単独飛行で記録できた数値である。
「未知の数値ですね」
「ただ話に聞くところによれば、国境を越えた先に風の一族とよばれる者が済む村があるそうですが、その一族の王族でまれに音と同じ速度で飛ぶことができた者がいたとも言われてます。最もそれが真実かどうかは知りませんけどね」
音速、すなわち時速1225km。
「それだけの速度で上空を飛んだなら高度によっては地上にでる被害はすさまじいものでしょうけどね。昔私が急いでいて一度低空で飛んだことがありましたが、それでも森の木々を吹き飛ばすには十分でしたからね」
「すさまじいですね」
「よほどの事が内なら飛びませんよ。それに一度行った事があるならよほど距離がない限り転移できますからね。ここから帝都までなら十分に転移可能な距離ですからね」
転移は高度な魔術だが、普通の導師なら帝都からリクイド城まで転移できる程度である。エラナはおおよそ帝国領土内なら一気に転移することができる。
ただ知った場所に限られる為、ある程度の場所まで転移した後は自力で移動するしかない。
「とりあえず早く済ませ戻りましょう。夕食に遅れるわけにはいかないでしょう」
「そうですね」
3人はすばやく服を脱ぐとそのまま川に入った。もともと帝国は気候が涼しい為に川で泳ぐ習慣はない。山の雪融け水が多いため水はかなり冷たい為、普通に泳ぐなら年に1月程度しか泳げる期間はない。帝国でも南の海に面した地域でも2ヶ月程度の間ぐらいである。
ただ、エラナとサリナは共に神に仕える事もあり凝水は普段から行っているし、ラクレーナは剣王フォルクの修行で寒い場所でも戦えるような修行をしていることもありこの程度ならば気にもならない。
30分ほどして水から上がると水滴をふき取るとすばやく衣類を着る。
「水温がかなり下がっていましたね」
ラクレーナはそう言うが、普通の者ならば寒くて入る事もできない水温である。地上の温度ですらかなり冷えている。
「あと2ヶ月もすれば雪に覆われるでしょうね」
この辺りは北の内陸部でもあるため冬の訪れは早い。
「そろそろ戻りますか」
そう言いエラナは来た時と同じように二人を連れて舞い上がる。

エラナ達が砦に戻ると夕食の準備は終わっていた。
「戻ったかエラナ」
「エラナさん、食事の準備ができてます。それと食事後そのまま軍議を開きます」
フォーラルが言う。
「わかりました」
「ラクレーナさん、サリナさんも中の方へどうぞ」
このとき食事の席に集まったのはベネラル、クリス、フォーラル、サーディン、ブラッサム、エラナ、ラクレーナ、サリナとランフォート、レイネートの10名とサンバスの副官3名の合計14名だった。
食事は前線ゆえそれほどのものでもないが、サンバスが彼らの労をねぎる意味でそれなりのものが準備されていた。
「さて、食事もおおよそ終わったようだな」
ベネラルは一同を見渡しそう言う。
「夕刻の話でおおよその方針は決まったと思いましたが」
エラナがそう言う。
「方針はそれでかまわぬと思う。だが思った以上に今年は冬の訪れが早い気がする。雪が降り始めれば、われわれは孤立することになる」
「降り始めるまでに2ヶ月、最低でもサーソス城まででも戻る事を考えれば1ヶ月半、帝都まで帰還するなら半月が猶予期間でしょうね」
「それぐらいだろうな」
「ベネラル、一つ聞きたいですが今回貴方が戦果をあげたなら次に貴方の地位はなんとなりますか」
「黒騎士団長でしょうな」
答えたのはサンバスだった。
「でしょうね、おそらくそれと同時にアルウスは貴方を帝国国境防御総司令官に任命して来るでしょう」
「つまり、俺にこの地を守れと」
「おそらく、私はおそらく帝都に戻って陛下に直接お仕えするとは思います」
「考えられん話ではないな」
「その根拠はあられるのですか」
フォーラルが尋ねる。
「まずアルウスが私とベネラルが共に聖都にある事を望んでいない事、ただ私は陛下から直接指名を受けているゆえに、アルウスがそれに従わざるを得ないこと、それとベネラルを離しておくことで、フォーラル、貴方も帝都から遠ざけることができる」
「私もですか」
「フォーラル、貴方が第二王位継承権があることを忘れているわけではないでしょう」
「そうではありますが」
「アルウスにしてみれば、黒騎士団の影響力がある貴方が帝都にいてはやりにくいということです。私以外に余分な相手は減らしたいでしょうからね。それとサンバス殿も同じ要に思われているでしょう」
「私もですか」
「まず、アルト侯爵家が先代の皇帝の分家であり先代の宰相が貴方の祖父であり、次期宰相候補に貴方の名前があること、もっとも私が帝都に残ることになることが前提ですけどね。まず私が第13代皇帝の分家であるフレア公爵家であること」
「そうか、たしか第13代皇帝は名ばかりで事実は直系であったのは王妃だったはず」
フォーラルが言う。
「アルスターク家の男系の直系は実際は私のフレア公爵家になるのです。だから13代皇帝は嫡子が成人するとすぐに退位して14代皇帝に変わっているのはそうゆう理由だからです。本当は私の曽祖父がなる予定でしたけど、まだその時に曽祖父に子供がいなかったのでそのような流れになっています」
「そうすると、エラナが王位継承権を持つこともできるのか」
「ただこれまでの帝国の歴史の上で女性に継承権があったことは無いはずです」
「聞いた事はないな」
ベネラルが答える。
「ただアルスターク家が本来は初代皇帝王妃であるエラナ・アルスタークで、初代皇帝が養子である事はあまり知られていませんけどね」
「初耳ですね」
フォーラルが答える。
「完全に隠蔽されましたからね」
「よくそれを知っていたな」
ベネラルが尋ねる。
「それらを記した書物はフレア公爵家に受け継がれていますからね。だからこそ、私の曽祖父が公爵家を返上したのですよ」
「隠れ本家か」
「ある意味ベネラルが言うとおりですね」
「初の女帝になるつもりか」
「皇帝位に興味はありませんよ、それに女帝でよければすでに初代皇帝王妃が皇帝になっていますよ。ならない理由はただ一つ、先のレスティア帝国がすべて女帝であったことです。それに私も初代皇帝王妃も魔術師です」
「なるほど、支配者としての魔道師は民が受け入れないということですね」
フォーラルが答える。
「そうゆうことです。私は自ら定めた目標を遂行するのみ、それを果たすゆえ必要なゆえにこうしているに過ぎませんからね」
「そうだったな」
ベネラルもそれは承知している。もしベネラルがエラナの目的を果たすゆえで邪魔をするならばエラナがベネラルに敵対することもありえるのだ。
「少し話がずれてしまいましたね。ベネラル、今回の件はどれだけの時間で解決させたいですか」
「残る事になるなら時間は関係無い気もするが、最低でもサーソス城へは戻りたい。1ヶ月だな」
「わかりました。ではそれまでに決着がつけられるように考えましょう」
エラナは暫く考え込むとすぐに口を開いた。
「レーナ、傭兵隊を引き連れ反乱軍の後方の都市に向かってください。それとベネラル、黒騎士団の中から冒険者の経験があるものを数名、ランフォートとレイネート、あとラルクにも教会騎士団の中から冒険者の経験があるものを数名」
「後方かく乱ですか」
「冒険者なら町に入るのにそれほどの苦労もないでしょう」
「それで、町にいってなにをすればいいのです」
ラクレーナが尋ねる。
「ここから都市まで7日、10日目前後の朝おそらく霧に覆われるでしょう。私が騎士団2000を率いて襲撃をかけます。その時にすでに内部に相当数の数が潜伏しているように行動してもらえればかまいません。こちらの方はフォーラル貴方にお任せします」
「畏まりました」
フォーラルが承諾する。ベネラルが何か言おうとしたがフォーラルが賛同したため首を縦に降った。
「私の予想ではこちらで戦いが始まるのと、都市を攻めるのはおそらく1日か2日の違いになると思います」
「作戦は以上のとおりか」
ベネラルが尋ねる。
「ちょっと待ってください。フォーラル、こちらはどのようにします」
「そうですね、基本的には少しずつ陣を前進させていきますが、1日ごとに後方から兵を減らして左右に展開させようかと思っています」
少し考えてからそう答える。
「ではそのように進めてください。行動はあすの朝より同時に出立して各隊別々に移動を開始してくだい」
「エラナの言うとおり行動する、今日はゆっくり休んで明日からに備えよ」
ベネラルが軍議の終了を宣言する。

エラナは部屋に戻ると日課になっているサリナに学問を教える。部屋はラクレーナも一緒だが、彼女は外でこれも日課の鍛錬をしに出ていた。
「1ヶ月半でここまで理解できるとはたいしたものです。普通なら1年をかけて教えること、あとは自分で学んでいけますよ」
「有難う御座います」
「さて、今日はそろそろ休みましょうか」
「はい」
サリナが答えると、エラナは衣類を脱ぎ始める。エラナもサリナも寝るときには薄いガウンを一枚着るだけでそれ以上は身につけない。
「エラナ」
扉を叩く音とエラナを呼ぶ声が聞こえる。
「ベネラルですか、開いてますよ」
言われてベネラルが扉を開けて入ってくるが、二人を見て目をそらした。
「なんて格好をしているんだ」
二人が着ているそれは、ほとんど肌が透けている。
「もう、寝ようと思っていましたからね」
「それはいいが、何か上に着てくれんか」
サリナは言われて神官着を着るが、エラナは何も着ず椅子に座る。
「別に気にすることでも無いでしょう。用はなんです?」
エラナはもともと見た目にはこだわらないし、見られたといって気にする事もない。過去にも何度かベネラルの前で着替え始めたことすらあった。
「先ほど、前線から早馬が来た」
ベネラルはエラナに言うだけ無駄であると、エラナから目線をはずし話を始める。
「反乱軍の砦に、かなり大量の食料が運びこまれたそうだ」
「自給戦に持ち込もうというつもりですか」
「だろうな」
「こちらの采配はフォーラルに任せるといった以上、私が口を出すことも無いでしょう」
「作戦に影響が無いならよい」
「フォーラルに任せて問題ないでしょう」
「わかった」
ベネラルはそのままエラナを見ないように部屋を出ていく。
「やれやれ、サリナ、貴女は先に休んでなさい。少し出かけてきます」
そういい、エラナはローブに羽織る。
「わかりました」
エラナはそのままベネラルを追いかけるように部屋を出て行く。

エラナは部屋を出てベネラルの部屋の前で彼に追いつく。
「どうした」
ローブを着ていることもあり、今度はエラナの方を向いて尋ねる。
「少し話があるわ、中いいですか」
「ああ」
そういい、ベネラルはエラナを部屋に招き入れる。部屋に入るとエラナはベネラルに分からないように扉に魔法の鍵をかける。
「ベネラル、そろそろ盟約の対価を支払ったほうがよくて」
「俺にそれは必要はない事は言っただろう。俺がお前の提案を受け入れたのは今の帝国を変えたいがゆえだ。それ以上は何も求めん」
「それで私が納得しないとはいったでしょう」
「別のものにならんのか、もう少し自分を大切にすることだ」
エラナがベネラルに申し出た対価は、提案を受け入れる代わりに自らの肉体を好きにしても良いというものだったが、ベネラルにとってはエラナは理解ある仲間で男女関係ではない。エラナに魅力が無いわけではない。王宮で出会う貴婦人なんかよりも魅力的ではあるが、愛はない。
「先の事がわかっている私にはそれを貴方との取引には使えないことは説明したでしょう」
「わかった、一度はそれで応じたのだからな。だからと言って、俺の嫁になるつもりはないのだろう」
「貴方が結ばれるのは私ではありませんからね」
「まぁいい、なら好きにさせてもらおう」
そういい、ベネラルはエラナをベットへ連れて行く。

エラナが部屋に戻ってきたのは、夜中と言っても良い時間だった。サリナはすでにベットで眠っている。ラクレーナもソファーで横になっていたが、エラナが入ってくると目を覚ました。
「遅かったのですね」
「そうね」
ラクレーナは、エラナとベネラルとの盟約を知っている。だからエラナがどうして来たのかわかっていた。
「エラナ、なぜそこまでするのです」
「しいて言えば、私が未来を知りうるから」
「貴方が、その未来を断ち切りたい事はわかっていますが、それは必要な事なのですか」
「それは分からないわ、もし断ち切れたとしたとき必要ではなかったのかもしれないし、必要だったのかもしれない。そればかりは知る事はできないわ」
「実際、ベネラル卿は貴方にとってはなんなのですか」
「必要な力ですかね」
「それだけですか、卿に引かれる部分もあるのではないですか」
「私は両親の寵愛を受けて育ってはいません。物心ついた頃には私とセレナと二人だけでしたからね。それにすでに魔道においてはほぼ使いこなせましたし、他の誰の助けも受ける必要はありませんでしたから、愛情とかそのようなものはわかりません。ただ、貴女が見てそうであるのならそうなのかも知れませんね」
「ベネラル卿が貴女に好意を持っているのは確かな事、受け入れてあげれば、卿も苦しまなくてすむでしょうに」
「私はベネラルを力で支える事はできても、心まで支えることはできない。彼の運命の人は私ではありませんからね」
「違った未来が発生する可能性はないのですか」
「細かい部分は知りませんよ。どのみち私は大きな変革を望んでいるのですから」
「エラナ、本当は結ばれるのが本当ではないのですか。そうでなければ、何度もできないでしょう」
「もし、それが事実だとしたら」
「できない理由があるのですか」
「結婚して生まれる子供は皇帝になるでしょう。三国を統一する皇帝にね」
「何か問題があるのですか」
そう尋ねる。
「億の人が死ぬ事になります。国は一代で滅び、さらに数千万の人が死に数百年に及ぶ戦国の世となる。そしてこの地から人の姿が消えてしまう。この地から人が消えたとしても全世界からすればごくわずか。それでもこの地から人々が消えるきっかけにしたくはありません。それと、いずれは宮廷司祭アルウスと戦わねばなりません。それにはベネラルと結婚していることが障害になる。アルウスの背後にいる黒幕がわかってる以上ね」
「黒幕ですか」
再びそう尋ねる。
「私の両親二人と、私の双子の妹、私が倒すべき相手」
「両親と妹がですか」
「そう、そして両親はともかく妹は私を越える魔道の使い手ということです。ただ、法皇の力は私だけが受け継いだようですから」
「法皇の力、エラナは使えますが神官達と同じように神の声が聞こえなければならないのではないのですか」
ラクレーナは疑問に重い尋ねる。
「通例、神聖魔法と呼ばれるもの全てが、神の力を借りたものではありませんよ。魔道師が使う術でも回復などは行うことができます。魔道師の術の中でもそれらしい魔法をそう呼んでいるものも数多くあります。本当に神聖魔法を使える者はごくわずかですよ。サリナの場合は、実際に神の力を借りて使うこともできますし、魔術師が使う方も使えるようですけどね」
「そう考えると、本当に神官や司祭と呼べる神聖魔法の使い手は数少ないのですね」
「そうね、帝国内で神の力を借りることができるのは、ジェランズ総大司教とラルク、それにサリナと母親ミレーラ、それに私、あと他に地方の司祭に数人いる程度でしょうね」
「少ないものですね」
「魔道の発展が原因でしょうね。逆に高位の魔道師が減ってもいますけどね」
「昔に比べれば豊かになりましたし、かっての時代に比べれば平和な時代といえますからね」
「戦がないとは言えませんけど、戦乱の世ではありませんからね」
「ごく一部の地域だけといえばそうですからね」
「それはそうとレーナ」
「なんです」
「この戦が終わったら貴女はどうします」
「一度、兄がいる聖王国へ行こうかと思っています」
「天馬騎士団ですか」
「兄が聖王国に仕える以上、私が帝国に仕えることはできないでしょう」
「帝国は聖王国を認めているわけではありませんからね。どちらにせよこの戦いが終わってから、今日はもう休むことにしましょう」
「そうですね」

翌朝ラクレーナは、傭兵隊を率いて出発すると、エラナも昼過ぎに騎士団2000を率いて出発した。
エラナの副官としてベネラルは黒騎士団から3名の黒騎士をつけた。黒騎士は全騎士の中でも一番階級が高いので、騎士を率いることには問題はない。
エラナは軍を進めるが、進む道が森の中を隠れて進んでいるため、そんなに速度は出なかった。今回は馬車で移動することもできぬため、馬に乗っているがそれは魔術で召還した魔獣であった。
サリナは馬に乗るのは初めてだったが、馬がすぐにサリナにあわせてくれた。
軍を進めて2日目、エラナは進軍を止めた。
「お久しぶりね、フェーナ」
そう呼ぶと、軍の前に一人のエルフが現れた。
「エラナ、久しぶりですね」
「フェーナ、ここから先を通してもらえませんか」
「この先がエルフの森であると言うことは知っているでしょう」
「知っていますよ」
「貴女だけならかまいませんが、これだけの人数をといわれますと」
「私は彼らをこの先に連れて行かねばなりません」
フェーナが右手を上げると、どこに隠れていたのか百名前後のエルフが弓を構えて姿を現す。
「引いていただけなければ、私達は戦うしかありません」
「私の実力は知っているでしょう。弓では私を倒すことはできませんよ。どうです、私と貴女との一騎打ちと行きましょうか」
「いいでしょう」
「空間創造(クリエイトワールド)!」
エラナが杖を掲げると、辺りを黒い闇が覆い包む。
「法皇の杖」
エラナの杖にフェーナが気がつく。
「さすがに知っていましたか」
「法皇セレネイドに実際に仕えていた私が知らぬとでも思いましたか」
法皇セレネイドが統治していたのは数千年も前の事、フェーナは当時から生き残る古代エルフなのである。
「そうでしたね、手加減はしませんよ」
「行きますよ」
同時にフェーナの右手に炎の鳥が姿を現す。
「フェニックスですか」
通常エルフ達は炎を嫌うが、フェニックスだけは再生の象徴でもあるため例外とするが、高位精霊ということもあり使いこなせるエルフはほとんどいない。
「極魔氷閃撃(フリーズ・ヴォルド)!」
「不死鳥(フェニックス)!」
エラナ、フェーナが同時に放つ。炎と氷、相互に打ち消し合う。
「女王不死鳥(クイーン・フェニックス)!」
次撃を放つのが早かったのはフェーナだった。
「はぁぁぁぁっ!」
エラナはそれを魔力を集中させた右手で受け止める。
「私の女王不死鳥、瞬時に防げるほどあまい物ではありませんよ」
そのままエラナの右腕を女王不死鳥は呑み込む。エラナはあわててその場から転移してかわす。
「やれやれ、あまく見すぎたようですね」
そう言うエラナの右腕が焼け焦げ形を成していない。
「その腕でまだ戦うつもりですか」
「このままではね」
そういったと同時にエラナの服までは修復しないが腕が元通りに修復する。
「高速修復」
神聖魔法には、体の一部を再生させる魔法がある。エラナはそれを瞬時にして見せてたのだ。
「法皇の力を使えることを忘れては困りますよ」
「その杖を手にしている以上はそうでしょうね」
「ですけど、この杖の秘密までは知らないでしょう」
エラナは杖を構えると殴りかかる。そして、杖から刀身が姿を現す。
「仕込み杖!」
法皇の戦いを見た者で生き残ったものはいない。ゆえにそれを知る者もいない。
「稲妻招来!」
これこそが、法皇の杖を手にしてエラナが可能とした技、魔法剣である。これまで手に入れた武器、自らが作った武器ではエラナの全力の魔力に絶えることができなかった。
「女王不死鳥(クイーン・フェニックス)!」
フェーナがとっさに放つが、エラナはそれを真っ二つに斬る。
「双翼!」
フェーナは二つに分かれた女王不死鳥を再生させ二匹とする。
「魔法消去(マジック・イレイズ)!」
エラナはそれを瞬時に消滅させる。
「やれやれ」
フェーナの背後に数十匹の不死鳥とさらに巨大な不死鳥が姿を現す。
「鳳凰無双激(フェニックス・エンペラー)!」
「法皇剣(セレネイド・ソード)!」
『魔道剣術奥義・法皇幻影剣舞』
瞬時にして全ての不死鳥が切り裂かれるが、それらの炎が一気にエラナを包み込む。
「終わりですね」
フェーナがそう呟く。
「剣舞、確実にしとめる為に放った後の防御はありません。ですが、私の意思がある限り何度でも再生して見せますよ」
燃え尽きたその中からエラナが姿を現す。
「エラナ、私の負けです。自らの肉体が朽ち果てても自身に蘇生魔術を使用できる相手に私の不死鳥は分がわるいですから」
エラナは自身の蘇生にそれほど苦労していない。不死鳥は再生を示す。不死鳥で焼かれてもエラナ自身はその不死鳥の影響を受け簡単に蘇生できるのである。不死鳥は浄化の力も持つがエラナは浄化される対象でもない。
「無駄な血が流れずに済むわ」
そういい、エラナは瞬時に衣服を纏う。衣類までは再生することができない。
「私はもともと法皇セレネイド様に仕えた身、貴女をセレネイド様と同じように仕えましょう」
そういい、フェーナは膝を折り臣下の礼を取る。
「私は貴女と臣下の契りを持つつもりはありませんよ。私と貴女では私の方が有利だけであり、実力は貴女の方が優れていますよ。それに神々の時代からは何千年も過ぎているのです。その必要はないでしょう」
その時、エラナの持つ杖からセレネイドが姿を現す。
『フェーナ、貴女の変わらない忠義うれしく思います』
「セレネイド様」
『古き束縛に縛られる必要はありません。エラナとは友として協力してあげなさい』
「畏まりました」
セレネイドは頷くとそのまま杖の中に姿を消す。

フェーナと和解するとエラナは軍にその場にとどまり野営するように命じるとサリナを連れてエルフの村へと向かった。
「お久しぶりです最長老」
エラナがそう呼んだ最長老であるが、フェーナとは違い普通のエルフであるのでフェーナから見ればかなり若いが普通のエルフとしてはなかり長く生きている。
「3年だったか、そなたには長いようだが私にとっては数日前のことか」
エルフと人間では時間の感覚が違う。
「話はフェーナから聞いているかと思いますが」
「話は聞いた、フェーナ殿がそう言われるのならそれに従いましょう」
普通のエルフ達から見れば、フェーナは彼らの象徴とも言える。精霊の王以上の存在で真実を見通す力をもった預言者でもある。
「有難う御座います」
エルフはもともと法皇が生み出した種族、その法皇に仕えたフェーナがエラナを法皇に次ぐ存在と認めたこと、彼らはそれに従わなければならない。
「明朝、門を開きましょう。今日はここで休んでいくがいいでしょう。で、エラナ殿、そちらの娘は」
「サリナ・フローリアと申します」
サリナが答える。
「神皇の血筋を引くものですね」
フェーナがそう尋ねる。
「神皇だと」
最長老が尋ねる。結果的に神皇は法皇と対決したが、神皇は法皇の父親でもありエルフたちにもまだ理解できる対象ではあるが、結果的に敵対した相手にはかわりない。
「何か問題でも」
エラナは最長老を睨むように見る。
フェーナが主と認めるほどのエラナ、最長老であっても力及ぶものではない。

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